洞穴 7

 そんな……大天狗さんが言った条件に、ぼくなんかが当てはまるはずないよ。

まわりのみんなが協力してくれてるっていうのは当たってるけど。

それに血筋だなんて……。

≪信じられないのも無理はないだろう。だが、その条件をクリアしない限りこやつを見つけることもできないし、ましてや意思疎通をすることは不可能だ。出会えるかどうか、我はこやつの“運”にかけていたのだ≫

そういえば、足もとにいても気づかぬままだったこともあるって言ってたような。

「……それが、呪い?」隆之介りゅうのすけが聞いた。

≪そのとおり≫

「でも、おれたちも天狗さんと会話できてたぞ?」れんが言った。

≪それは、こやつがある程度の力を取り戻してからであろう?≫

「うん……そうだけど」

≪それは、こやつの能力ちからが成したことだ。われがかけた呪いは言い換えれば『ミッションクリアするためのバディ探しにかかわる枷』だからな……おっと、いかんいかん。こんな比喩をするとは。我の頭もしてきたな≫

 

 ……ゲーム?

「え!?もしかして、大天狗さんって。ぼくに、ここへの山道の入り口を教えてくれたおじさん?!」

≪正しくは、姿だがな。間違ってはいない≫

「あのあと帰りにお礼を言おうと思ったのに、姿が見えなかったのは?」

≪お前が、道を探せなくて困っていたようだったから、教えに行くためだけにあの姿になった。我が作り出した姿だから、今のあの地区にあのような人物は存在していない≫

「あの時言ってた孫とかは?」

≪ヒトとして暮らすうちに覚えたもので、我には子供はもちろん孫もいない。なかなかの演技力であったろう≫

確かにふつうのおじさんにしか見えなかった。

「だったら、教えてもらった入り口に立ってた古そうな看板は?」

≪あれも我が立て置いた。ものがあると信憑性が増すだろう?≫

「しん……ぴょうせい?」

「どのくらい信じられるかってことだよ」隆之介が教えてくれた。

「じゃあ、ぼくが天狗さんが入ってる玉を持ってたのも知ってたの?」

≪ああ。こやつのことは、ずっとていたからな。もし、来るのにもっと手間取るようだったら別の手助けをしたかもしれんが……それは杞憂に終わったようだ≫

「じゃあ、ここが最後の場所?天狗さんの右手がここにあるの?」

大天狗さんがうなづく“気配”がした。

「じゃあ……天狗さんは元の姿を取り戻せるんだね!」

 

 ≪ああ。我がこやつに課した条件は満たしているからな。元の姿に戻してやろう≫

「ほんと!」

「やった!!」

ぼくたちはうれしくって、ハイタッチしあった。

「あ、でも……」隆之介が言った。

「どうして“ここ”がその場所なんですか?」

そういえば、そうだ。

ほかの天狗さんの分身はみんな水に関わるところだったのに。

≪なぜ、と聞く?≫

「だって、他の……身体の部分はみんな水に関わる場所にあったから」

≪その答えは、こやつがいちばんかっているはずだ。そうであろう≫

最後の言葉は天狗さんに向けられたものだったみたい。

【承知しております】

いつもの天狗さんと違う口調だ。

「ねえ、その理由って何なの?」ぼくは天狗さんに聞いた。

【ぬしは、わしが封印されたときに父上に言われたという言葉を覚えておるか?】

「えっと……『反省せよ。いずれ時が過ぎ、おぬしの声に反応し協力するものが現れれば、もしや元の姿を取り戻せるかもしれぬ。全てはおぬしに関わる場所に』だったよね」

【そうじゃ。そしてこの場所こそがなのじゃ】

 

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