洞穴 6

 「だ、だれ?!」

重く洞穴に響き渡るような声は、いままで聞いたことがなかった。

≪ここに来るまで、かなりの年月としつきかかったようだな?≫

【やはり、ここは】

「天狗さん?どうしたの?ここがどこか知ってるの?」

【……父上じゃ。父上がおいでになる洞穴じゃ】

「父上って……」

たしか天狗さんは、ほんとうのお父さんのもとを去って天狗になるための修行に入ったって言ってたから……。

「お父さん天狗さん?!」

言って後悔した。

≪……まあ、あながち間違いではないが。せめておお天狗と言ってもらえんか?≫

「えっと、大天狗……さん?」

≪まあ、それでよい≫

【これ、小僧。大天狗と言わぬか】

≪よいよい。そのような言葉、今の者は使わん≫

 

 たしかに……『様』って手紙の宛名とかでしか見ないかも。

「今、ふつうに『様』って呼ぶのは天皇家の方々だけかもね」隣で隆之介が小声で言った。

「それにしても、大天狗さんの話し方よりも天狗さんの話し方の方が古い……よね」

ぼくも、そう思う。

われの話し方の方が、新しいと思うか?≫

小声で話していたのに聞こえていたらしい。

4人ともその声に“うんうん”とうなづいた。

≪それは当然だろう。我はそなたたちヒトの間に交じって暮らしていたからな≫

ぼくたち人間の間に交じって??

≪ヒトとして暮らし、こやつが戻ってくるのを待っていたのだ≫

「あ……」

いつの間にかぼくが持っていたはずの玉が空中に浮いていた。

≪もう少し早く戻ってくると思っていたが……なかなか邂逅かいこうせんかったようだな≫

「かい……こう?」聞きなれない言葉だった。

≪お前らには難しかったかな。めぐりあうといったらわかるか?≫

「はい」

≪ところで、つかぬことを聞くが、お前たちはこやつがこのような目にあう経緯いきさつは聞いているか?≫

 

 「だいたいのところは」ぼくは答えた。

≪そうか。それなら話が早い。実はな、我はこやつを封印する際に一種の呪いをかけた≫

「呪い?」

≪封印を解く手助けができる者を限定したのだ。いくつかの条件をつけたと言ったほうがわかりやすいか?今風にいえば“ゲームクリアのための条件”とでも言うのか≫

「その『手助けができる人』の条件って、どういうものだったんですか?」隆之介が聞いた。

≪まずは、性根がよいこと。まっすぐな心をもっておること。次にあきらめぬこと。最後までやりとげようとする気持ちがあること。次に人に嫌われぬこと。協力してくれる仲間が周囲におること。そして最後に……こやつの血筋であること≫

「……さいごのひとつはわかんないけど、あとの条件って悠斗そのものじゃない?」隆之介が言った。

「おれもそう思う」

「おれも」

蓮も智生も言った。

「いや、ぼく、そんなすごい人間じゃないし。それに血筋だなんて」

≪いや、おまえはこやつの血筋だ≫

 

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