洞穴 3

 「へえ、やっぱり山の中の木かげになると涼しいね」隆之介が感心したように言った。

少しだけ上り坂だったけれど、涼しいし歩きやすい道だったからぼくたちはどんどん歩いていった。

「ヒダリニマガリマス。ゴチュウイクダサイ!」突然智生ともきが言った。

トラックとか大型車が角を曲がるときのアナウンスのまねをしているらしい。

「智生くんって、ユニークな子ね」うしろからおばあちゃんが声をかけてきた。

「うん、すっごくユニークだよ。なんていうのかなムードメー……」

そう言いかけた時だった。

「げえっっっ!なんだよ?これ」角をまがったらしい智生が叫ぶ声が聞こえた。

「どうしたの?」

「なにがあった!」

あとを追って曲った隆之介とれんもそれぞれ『ええっ!』『なんだよ、これ!』といった叫び声をあげた。

「なにがあったのかしら?行ってみましょう、悠斗はると

 

 角を曲がったぼくは、絶句した。

ぼくが見たものは、ずっと上まで続いていく急な階段。

いきなりこんなの見たらびっくりするはずだ。

それも上りなれている“ちゃんとした”階段じゃなく、ごつごつした石でできた石段だった。

「え~!これを上るのか?」智生が言った。

「上らないと、目的地につかないんだから。ここまできたら上るしかないじゃない?」

りゅうが言うとおりだよ。それに、そんなに上りにくくはなさそうだし。な、隆」

「うん。しっかりした作りの石段だし、簡単なものだけど手すりもあるし。これだったら頑張れば上っていけるよ」

「山道だから、歩くのが大変ってこのことだったんだ」ぼくはつぶやいた。

「何か言った?悠斗」隆之介が聞いてきた。

「うん。道を教えてくれたおじさんが、ぼくが洞穴に行きたいって言ったときに『見どころがある』って言ってたの。そして『一本道だけど山道だから、歩くのが大変』って。そのときは歩きにくい道なのかな?くらいに考えてたけど」

「たしかに大変そうだけど、行くしかないよね。頑張ろ、みんな」

 

 「しかたない……TTP天狗さんを助けるんだプロジェクトリーダーのおれがここであきらめたら名がすたる。上ってやろうじゃねえか!」

「やる気を起こしてくれたのはいいけど、いつ智生がリーダーになったの?」隆之介が聞いた。

「今」

「はあっ?」

「おれがリーダーで、隆が総司令官。蓮がボスで悠斗が総大将。そして悠斗のおばあさんが名誉会長」

「結局、みんなトップじゃねえかよ」蓮が笑いながら言った。

笑ったおかげで、階段を見たショックも疲れもちょっとやわらいだみたい。

「じゃ、上りましょう。しっかりした石段だから大丈夫とは思うけど、気をつけなさい」

ぼくたちはさっきの順番で石段を上っていった。

上りながら数えてたけど、100段を超えたところで数えるのをやめてしまった。

そしてあとは、ただもくもくと上っていった。

みんな無口になり、息づかいも荒くなってきた。

(あと、少し。あと、少し)そんな言葉を呪文のように胸の中で唱え続け……やっとのことで石段を上りきった。

立ったままひざに手をおいて、息を整える。

「やったな!」

「うん。やっと着いた」

智生と隆之介が汗をかいた顔を見合せて片手でハイタッチしていた。

 

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