洞穴 2

 「智生ともき……遅いな」

約束の時間になっても、市役所の駐車場に智生の姿がなかった。

「変だね。こういうときは一番乗りしてるのに」

ほんとに……どうしちゃったんだろう?そう、考えていると自転車が猛スピードで走りこんできた。

駐輪場に停めて鍵をかけて走ってくるのは、智生だった。

「悪い!寝坊した!!」

はあ、はあと息を切らせながら智生が言った。

「ゆうべ、遅くまで書いてて……なんとか書き上げて寝たら、寝坊しちゃって」

「大丈夫だよ。遅刻っていっても5分くらいだし」隆之介りゅうのすけが慰めるように言った。

「いーや!おれにしたら大遅刻。一番乗りするつもりだったんだからな」

……やっぱり。

「寝坊したって言ってるけど。智生くんは、ごはんはちゃんと食べてきたの?」

おばあちゃんが聞いたとたん、タイミングよくグゥ~と智生のおなかが鳴った。

「あらあら、じゃあ途中でコンビニにでも寄りましょ」

 

 コンビニで智生のサンドイッチとミルクティを買った。

お金を出してくれたのは、おばあちゃん。

ぼくたちにも何か要る?って聞いてくれたけれど、昼ごはん食べたばかりだから今はいいやって答えたんだ。

あとでなにかおやつおねだりしようかな。

智生が夢中になって食べている間に、車は目的地へと近づいて行った。

「こんな場所、初めてだよ」隆之介りゅうのすけが言った。

「おれも」れんも同意した。

「このまえはね、このあたりを歩いてたら知らないおじさんに声をかけられたんだ。でも……あれ?」

「どうした?」蓮が聞いてきた。

「あのとき、おじさんは畑仕事してたみたいだったのに……畑とかないなって」

「場所が違うんじゃないのか?」

「そうかなあ?」

「そろそろ着くわよ」

 

 車が停まった場所は、記憶していた場所だった。

というか、来たばっかりなんだもの。

だから、おじさんがいたあたりも間違えるはずがなくて。

でも畑がなくて……。

「車の中からだと、違って見えるのかもしれないし。とりあえず行こうよ」隆之介が言った。

「そうだね。あのね、ここ。立て札があるところが入り口なんだ」

「へえ、立て札までたってるんだ。でも雑草で隠れちゃってるところを見ると、かなり長いこと誰も来てないみたいだね」

「でも誰も来てないわりには、道には雑草がほとんどないぞ?」

「あ、ほんとだ」

この前は気づかなかったけれど、周囲はぼくの腰くらいの雑草が生えているのに、道には小さい雑草しか生えていない。

「でも、草がないほうが歩きやすくてラッキー。さっそく行こうぜ」

「そうだね」

智生が先頭を歩きたがったので、任せることにした。

もちろんこのまえのおじさんが『一本道』って言ってたからだけど。

智生の後ろを隆之介、蓮、ぼく、おばあちゃんの順で歩くことにした。

 

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る