あと、ひとつ 9
「ペットボトル?なんで?おばあちゃん」
「せっかく水くみ場に来たんだし、おうちに持って帰りたくない?」
そういえば水風呂のときに、そういうこと言われてたような気がする。
「今日はせっかく車なんだから」
おばあちゃん、準備いいな。
「でも、なんで500mlのペットボトル3本なの?2Lのペットボトルだったら、もっとたくさん持って帰れるのに」
「
「えっと、500gくらい」
「それが3本だと?」
「1.5kg」
「正解。では2Lのペットボトルは?」
「そんなの簡単だよ。2kgで……。あ!」
持てない事はないけれど、ちょっと重い。
いくら下り坂でも、あまり持ちたい重さじゃない。
「さ、まずはこの坂を上りましょ」
「はーい!」
ぼくたちはおばあちゃんの後ろについて歩き出した。
「結構、きつい坂だね」隣を歩いていた隆之介が首からかけたタオルで汗をふきながら言った。
ものすごく急な坂ではないし、ちゃんと舗装もしてあって歩きにくくはないけれど。
それでも暑い中、坂を上っていくのは、ちょっとつらいかも。
まだ、少ししか歩いてないのに汗がいっぱい出る。
「これで、木陰でもあると違うんだけどね」
「そうだね。でも、この先に水くみ場があるんでしょう?それってわき水だから、きっと天狗さんの右手があると思うんだ。そう思うと頑張れるかなって」
「そうだね。きっと、右手がそろうよね」
右手がそろったら、天狗さんが元の姿を取り戻せる!
そう考えると、ちょっとわくわくしてきた。
なにが起こるんだろう?
天狗さんはどんな姿でぼくたちの前に出てきてくれるんだろう?
「もう少しよ!みんな頑張って」先頭を歩くおばあちゃんが振り返って言った。
おばあちゃん……ぼくたちよりも元気かも。
「おそらく、ここね」
ようやく着いた目的地には、特に案内板や看板はなかった。
小さな祠があって、すぐそばから水が流れ出ているだけだった。
ぼくたちはさっそくペットボトルに水をくみ、まずはのどをうるおした。
水筒は持ってきてるけど、せっかくわき水があるんだもん。
「うめえ!」
「ほんと、おいしい!」
みんな口々に言う。
500mlなんてあっという間に飲み干してしまった。
十分にのどの渇きがおさまったので、今度は持ち帰り用に水をくんだ。
3本分だと、やっぱり結構な重さになる。
「じゃあ、いよいよだな」蓮が言った。
「うん」
ぼくはポケットから玉を取り出して、天狗さんに話しかけた。
「ねえ、天狗さん。ここに天狗さんの右手さんはいる?」
【ふむ、どうじゃろう】
ふうっと風が吹いて、ぼくたちの間を抜けていった。
しばらくして天狗さんの声が聞こえた。
【……ここには、わしはないようじゃ】
続
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます