あと、ひとつ 8

 「みんな、おまたせ」

駐車場には、もうみんな集まっていた。

「みんな、早いわね」

おばあちゃんも車を降りてきた。

「今日は、よろしくお願いします」

れんを送ってきたらしい女の人が、おばあちゃんに声をかけて頭を下げている。

「あの人、蓮のおかあさん?」

「そう。おれのかあちゃん。来なくていい、自転車で行くって言ったのに『ごあいさつしなくちゃ』って」

「そうなんだ」

隆之介りゅうのすけ智生ともきのお母さんはぼくのおばあちゃんを知ってるけど、蓮のお母さんは知らないからな。

それにこの前はバスだったけど、今度は自家用車だからかも。

「ご丁寧に、ありがとうございます。事故などないように行ってきますので、どうぞご安心ください。ほら、みんなも乗って」

みんなが乗り込んでシートベルトを着けるのを見届けると、車に乗り込んでシートベルトを着けた。

そして窓ごしに蓮のお母さんに一礼して、エンジンをかけて車を出発させた。

 

 「今日行く場所って、どんなところなんだろう?」智生が言った。

「山なんだろ?一応スニーカーで来たけど。かあちゃんに『水遊びに行くのにスニーカー?』って言われちゃったよ。水辺だけで浅いらしいからって言っておいた」

「水くみ場に行った後は、ちゃんとそっちにも寄らなくちゃね」

おばあちゃんが運転しながらそう言った。

窓の外の景色は、どんどん緑が多くなっていった。

たぶん、この前行った水風呂があった場所よりもずっと田舎なんだろうな。

「まだ時間かかると思うけど、あなたたち退屈しない?」

「少し……」智生が言った。

「じゃあ……しりとりでもする?」

「しりとりとか、ずっとやってないな。面白そうだからやろうぜ」蓮が同意した。

「賛成」隆之介と智生も同意した。

 

 久しぶりのしりとりは、すごく盛り上がった。

おばあちゃんがいろんな言葉を知っているのは大人だから当たり前として、隆之介もすごくたくさんの言葉を知っていた。

智生はその反対で、すぐ言葉に詰まって『パス!』を連発していた。

ペナルティも罰ゲームもなしというルールだから、みんな思い切り楽しんで大笑いしながら目的地までの時間を過ごした。

「ああ、面白かったわ。こんなに笑ったのは久しぶりじゃないかしらね。……そろそろ、駐車場に着くわよ」

窓の外を見るとかなり山の中に入ってきているようで、まわりには家が一軒も建っていなかった。

「すっげ、ザ・田舎って感じだな!」智生が言った。

駐車場に車を停めて車を降りると、おばあちゃんはトランクを開けてなにやらゴソゴソしていた。

しばらくするとおばあちゃんは手に何か入ったビニール袋を持って、ぼくたちのほうに来た。

「はい。みんなそれぞれこれを持って」

ビニール袋を受け取って中を見ると、カラのペットボトルが3本ずつ入っていた。

 

 

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