あと、ひとつ

 水風呂からの帰りは、バスの中で寝てしまって覚えていなかった。

おばあちゃんも寝ちゃってたから、市役所が終点でほんとによかった。

智生はるきは降車ボタンが押せなくてがっかりだったけど、揺さぶっても起きないくらいグッスリ寝てるんだもん、押すどころじゃないと思う。

「今日は、ありがとうございました」3人がおばあちゃんにお礼を言っていた。

そういえば、おばあちゃんって引率の保護者だったっけ。

なんだかすっかり忘れていた。

「こちらこそ、ありがとうね。隆之介りゅうのすけくんも智生ともきくんもお母さんによろしくね」

「はい!」

れんくんも、いつも悠斗はるとの相手をしてくれてありがとうね」

「いえ……おれも悠斗のおかげでいろいろ助かってる……ますし」

蓮が頭をかきながら言った。

「じゃあ、またな!」智生と蓮がそう言って帰って行った。

 

 「やっと、左手までそろったね」隆之介が言った。

「そうだね。いっしょにさがしてくれて、ありがとう」

「これで、あとひとつだね」

「うん」

「あと1か所か……またPCパソコンで調べないとね」

「いつも、調べてもらってごめんね」

「ううん、ぼくも調べるの楽しんでるから大丈夫だよ」

「そのことなんだけど」おばあちゃんが話に入ってきた。

「霊水とされているかは聞いてないんだけど、山の中にわき水をくめる場所があるらしいのよ」

「え!そうなんですか?」隆之介がぼくより早くおばあちゃんの話に反応した。

「そうなのよ。今日聞いた話なんだけどね、あなたたちが水風呂に行ってる間に水くみ場に来ていた人達とおしゃべりしてたのよ」

人みしりのおばあちゃんにしては珍しい。

「その人たちは市外から来てたんだけどいろいろ詳しくってね。あなたたちが最初に行った石窟にも汲みに行った事があるんですって。ただ、あそこは水量が少ないからこっちで汲むようになったそうなんだけど。何回かに一度は山の水くみ場にも行くっておっしゃってたわね」

 

 「山の方……」

「私もめったに山手には行かないから、そんな場所があることも知らなかったけれど。なんでも公園があって、その脇の道を登って行った道路沿いにあるらしいわ。車で行けるけど駐車場がないしUターンしにくいから、なかなか行けないんですって。水そのものは美味しいから、しょっちゅうでも行きたいんですけどともおっしゃってたわね」

「その場所……」

「もしかしたら、かもしれないね」ぼくと隆之介が同時に言った。

すごい……手がかりがこんなに早く見つかるなんて。

「ねえ、おばあちゃん。その水くみ場に行ってみようよ」

「行ってみようって簡単に言ってくれるわね。公園があるとは聞いたけれど、どのあたりかまでは聞いてないわよ。ちゃんと調べてからじゃないと。それに、あなたひとりで行くわけ?悠斗」

 

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