初めての 6
玉は……割れてなかった。
それどころか、傷ひとつついてなかった。
「よかった……」
ぼくは安心して、玉を抱きしめるように持った。
【おのれ、こわっぱ!愚弄しおって!!】
いきなり天狗さんの波動が伝わってきた。
ぶわぁっと髪の毛が逆立つような感覚が、ぼくを襲う。
天狗さん……すごく怒ってる?!
【小僧の知り人と思うたが故に
荒れ狂う強風、叩きつけるような豪雨、そして稲妻の直撃……それらすべてが天狗さんの指先ひとつで拓也を襲う!
ずぶ濡れで地面に横たわる黒く焦げたモノ……そんなイメージが頭の中に流れ込んできた。
(ダメ───────────ッ!!!そんなことしちゃ、ダメ!ぼくはいいから!ぼくは大丈夫だから、そんなことしないで!!)
頭の中に浮かんだ天狗さんに、ぼくは必死で訴えかけた。
天狗さんの目が、燃えるように赤く光ってる。
こんな姿の天狗さんを見るのは初めてだ……怖い!!。
いつも玉の中に小さくしか見えてなかったけれど、今見えてる天狗さんはすごく大きくて。
きっとこれが本当の天狗さんの姿なんだって、思った。
ぼくが必死に(やめて!)って頼み込んだからか、怒りに満ちた波動がだんだんいつもの天狗さんのものに戻ってきた。
赤い目も元に戻っていた。
「だいじょうぶか!」
「あ、うん。玉は無事だったよ。割れてもないし傷もついてない」
「玉も心配だけど、
「あんなやつに土下座なんてすることなかったのに」
「ぼくは大丈夫だよ。そんなことより天狗さんを返してもらえなかったらって考えたら、もっとつらかったから」
天狗さんが怒り狂ってた時間……すっごく長く感じたけど、きっと数秒ぐらいのことだったみたい。
「あの野郎。やっぱり一発ぶんなぐってやればよかった」蓮が言った。
「あ、天狗さんもすごく怒ってて『成敗する』って言ってた……やめてってお願いしたけど」
「なんで!仕返ししてもらえばよかっただろ?」智生が言った。
「うん。でも、それでまた天狗さんが罰を受けたりしたらかわいそうだなって」
「悠斗はやさしいな」蓮が言った。
「仕返しなら、受けているみたいだよ」クスクスと笑いながら
そこには、どんなに進もうとしても前に進めない拓也の姿があった。
右に進もうとしても左に進もうとしても、3歩も歩くと進めなくなっている。
前後左右、どんなに方向を変えても3歩以上は進めないようだった。
「もしかして、天狗さん何かした?」
【……ぬしは何もしないでと申したが、それではわしがおさまらぬでの。風に頼んで“あの者しか立ち入られぬ空間”を作ってもらったのじゃ。呼吸はできるから、命にさわりはなかろう。ただし外の声は聞こえても、中の声は外に漏れぬようにしたがな】
「それって……」
「結界」
「だね」
天狗さん……やることが怖いよ。
続
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