初めての 5

 あいつ。

クラスメイトの拓也たくやだ。

やだなぁ、こんなところで会うなんて。

「おまえたちも水汲み?っていうか、さっきなに見てたんだよ?」

「何にも見てないけど?」隆之介りゅうのすけが答える。

「いーや、見てた。こうやって目の前に手を持ってきてたじゃないか。それもお前らみんな」

「じゃあ、見てたとしよう。それが古田になんの関係があるんだ?」

「おれにも見せろっていうことだよ」

「イヤだね」

「榊には聞いてないよ。見てたのって高橋の持ち物だろ?さっき渡してたからな。榊が答えるの違うんじゃね?」

そういって拓也はぼくの方を向いた。

「なにを見てたんだよ?おれにも見せてくれたっていいだろ?」

「ごめん、見せられない」

「なんでだよ?」

「大事なものだから」

「はあ?!なんだよそれ。榊たちには見せてるのに、おれにはダメだって言うのかよ?バカにしてんじゃねえぞ!」

ドンッ!

「あっ!」

突き飛ばされて転んだぼくは、その拍子に手に持っていた玉を落としてしまった。

 

 玉はころころと、拓也の足元に転がっていった。

「なんだよ?これ」

「あ!だめ!!」

ぼくの制止を無視して、拓也は玉を拾い上げた。

「なんだ?ビー玉じゃねか。こんな小汚いビー玉のどこが大事なものなんだよ。こんなのどこにでもあるじゃねえか」

「そう、思うんだったら返してよ」

「やだね」

「返してってば!」

「古田、返してやれよ!」智生ともきも言ってくれる。

「い・や・だ。どうしても返してほしいなら土下座するんだな。土下座して『返してください。お願いします』と言えよ」

それって……。

土下座なんて、それも拓也に対してそんなことしたくないけど。

天狗さんを取り戻すためなら、なんだってしなくちゃ!

「……わかったよ。土下座だってなんだってするから、そのかわり必ず返してよ!」

「ふん!土下座できたらな。できもしないことを言うんじゃねぇよ」

「できるよ!」

 

 「古田!お前、ぶんなぐられたいのか!」と蓮が右手のこぶしを振り上げながら威嚇してるのを制して、ぼくは足元の石畳の上に正座した。

そしてまっすぐに拓也を見て言った。

「古田君。ぼくの大切なものなんだ。返してください。お願いします」そう言ってお辞儀の形で頭を石畳につけた。

悔しい……でも、天狗さんを取り戻せるならこんなことくらい!

「古田!約束だろ!」鋭く隆之介が言う。

ぼくからは見えてないけれど、蓮も智生も拓也をにらみつけていると思う。

「……くそ。わかったよ。返せばいいんだろ」

ぼくは玉を返してもらおうと立ち上がった。

そして拓也のところに行こうとしたとき。

「なんだよ!こんなもの!!」

拓也は玉を持った手を高く上げ、たたきつけるようにふりおろし、そのまま走っていった。

カツッ!

拓也の手をはなれた玉が石畳にあたって、乾いた音をたてる。

「ああっ!」

ぼくは叫んで、たたきつけられた玉のところにかけよった。

 

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