初めての 4
【ふむ。風に、雷への仲立ちを頼んでみたが。わしにとっても初めてのことゆえ、うまく行くかはわからぬの】
「この前、雨に降ってもらったときはうまくいったじゃない?」
【あの時は、ただ降らせてくれと頼むだけじゃったからな。今回のような時を限った頼みごとはしたことがない】
「昔の、封じられる前も?」
【うむ】
また、ふうっと風が吹いた。
【雷が、なんとかやってみようというてくれているらしい】
「ほんと?!」
……遠くのほうでゴロゴロゴロと鳴り出した。
音はだんだんとぼくたちのほうに近づいているみたいだった。
時々、ピカッと稲妻も光っている。
雷鳴もだんだんと大きくなってきた。
「そろそろ、天狗さんの分身があるあたりに行ったがよさそうだね」
隆之介の言葉に促されて、ぼくたちは小さな鳥居を抜け大きな古い木が生えているところへ近づいた。
【おそらく、このあたりじゃ】
雷鳴も激しくなってきている。
“雷を呼んでいる”と知らなかったら、耳を押さえてうずくまっているところだ……雷、嫌いなんだもん。
ぼくは、石窟の時のように玉を両手に持って上へ上げた。
ピカッ!
光がぼくたちをつつむのと、同時に今までで一番まぶしい稲妻が光った。
「うわっ!」
ぼくたちもびっくりしたけれど、水を汲みに来ていた人たちもびっくりしたようで
『きゃあ!』とか『おおっ!』とかいった悲鳴が聞こえた。
数秒たった頃“ゴロゴロゴロ”とかなり大きな雷鳴が鳴り……そのあとはだんだんと稲光の回数も減り、雷鳴も遠のいていった。
「落ちそうで落ちなかった雷といったところだね」隆之介が言った。
水汲み場のほうからは『びっくりしたわね~』とか『落ちるかと思った』という話し声が聞こえてきた。
「ここには、どこがあったの?」おばあちゃんが尋ねてきた。
玉を光にすかしてみると、そこには左手が戻った天狗さんの姿があった。
「左手さんがあったみたい」
「そうなの。無事に戻ってよかったわ」
【うむ。片手であったとしても戻ってくると、心強いものじゃ】
「そうなの?」
【うむ……利き腕である右手が戻ってくれると、余程よかったのじゃが、左手でもありがたいものじゃ】
「おれにも見せて」
「私は、ちょっとお手洗いにいってくるわ」おばあちゃんは建物のほうに歩いていった。
「ほんとだ。左手までそろってる……あと右手だけだな」
珍しく智生の発言がおとなしい。
「おれも見たい」
「ぼくも」
4人でかわるがわる玉をのぞき込み、作戦がうまくいったことを喜び合った。
「今日も、大成功だね」隆之介がぼくに玉を返してくれた。
「うん、そうだね」そう言って玉をポケットに入れようとしたとき、突然声がした。
「なんだよ、お前たちも来てたのかよ」
聞き憶えがある声にふりむくと、そこにはあいつが立っていた。
続
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