初めての

 今日は、初めて市営バスに乗る。

そう考えてたらドキドキして、ゆうべはなんだかよく眠れなかった。

隆之介りゅうのすけが乗り方を教えてくれてるし、おばあちゃんも一緒に行ってくれるから間違うはずはないんだけど、やっぱり初めてのことだとドキドキしちゃう。

だからつい、約束よりずっと早い時間に着いちゃったんだけど。

「おーい。遅いぞ!」

「え?なんで智生ともきがもう来てるの?」

なんと、いちばん遅刻が多い智生がぼくよりも先に来ている!

「智生だけじゃないぞ!」

「めずらしいね、悠斗はるとが一番最後なんてさ」

……れんと隆之介も、もう来ていた。

「みんな早すぎるよ」

「だって……な!」蓮が言って、あとのふたりがウンウンとうなづく。

「「「こんな楽しいことに、遅刻するわけにはいかないからね」」」

ハモんないでよ、もう。

 

 そこに見なれた車が入ってきて、駐車スペースに停めた。

おばあちゃんだ。

車から降りてドアをロックしてから、ぼくたちの方に近づいてくる。

「あら、私が一番最後?こんにちは。今日はよろしくね」

「「「こんにちは!今日は、よろしくお願いします」」」

「おばあちゃん、ありがとう」

「……」

、今日はありがとう」

「はい、よろしい」

「あの、おばあさま。今日の予定について打ち合わせたいのですが、よろしいですか?」

「はい、いいですよ」

隆之介がおばあさまと呼ぶのはいいんだ。

隆之介がおばあちゃんと打合せをしていると、智生が小声で聞いてきた。

「なあ、あの人ほんとに悠斗のばあちゃん?」

「そうだけど?」

わけえ~うらやましい!今、何歳だよ?」

「えーと……あと何年かしたら65歳だったと思うけど?」

「うそだろ?おれのばあちゃんより年上?!ぜってー見えねえ!」

ゴツッ「いてっ!」

ゴツッ「いたっ!」

 

 「ふたりとも……女性の年齢の話なんてするもんじゃないよ」隆之介が呆れた顔で言った……ゲンコツした当のおばあちゃんは、素知らぬ顔をして言った。

「そろそろバスが来るわよ。忘れ物はないわね?」

「はい!」

バスは思ったよりも小さかった。

もちろんママやおばあちゃんの車よりはずっと大きいけれど、社会見学とかで乗る、扉がひとつしかないバスよりは小さかった……そして扉が片側だけにふたつあった。

真ん中あたりにある扉から入って整理券を1枚とり、空いている座席に座った。

ふたりずつ座れる座席で、ぼくは蓮と、隆之介と智生が一緒に座った。

おばあちゃんは、1人用の座席に座った。

いつもより高い位置から見る風景はなんだか新鮮でワクワクしたけれど、『さわがないこと』と隆之介からクギを刺されていたので、さすがの智生もおとなしく窓の外を見ているようだった。

いつも見ているような家ばかりの景色からだんだんと田んぼと家が同じくらいの景色に変わり、田んぼの割合のほうが多くなって、ちょっと退屈したなと思っていたらに下りる予定のバス停名をアナウンスする声が聞こえた。

ピンポーン!

待ってましたとばかりに降車ボタンを押したのは、智生ではなく蓮だった。

 

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