次の謎

 「まあ、そんなことがあったの。私も見てみたかったわ」

夏休みの間、ママが仕事の日はおばあちゃんの家で過ごすことになったぼくは、昨日のことをおばあちゃんに話した。

「うん。玉が浮かんで智生ともきの頭をめがけて落ちたのにもびっくりしたけど、雨を降らせたのが天狗さんだったというのが、もっとびっくりしたよ」

「だったら、力を使った天狗さんはきっとお疲れね。栄養補給をしてもらいましょう」

そう言っておばあちゃんは、キッチンにはちみつ湯を作りに行った。

ぼくの家でも入れてあげられればいいんだけど、ママの目があるからはちみつ湯はおばあちゃんの家でだけ。

「その雨が、結界を作ってくれたのね」

はちみつ湯を持ってきてくれたおばあちゃんが言った。

「けっかい?」

「あら、悠斗はるとが読んだ本の中にはまだ出てきなかったかしら?」

おばあちゃんが言ったタイトルの本は読んでいる途中なんだ。

だけど、まだ『けっかい』という言葉は出てきていなかった。

 

 「もう少し先で出てくるのかしらね。もともとは仏教とか神道とかの宗教界がらにの言葉でね。修業の場を聖なる場所とし、そこにふさわしくないものが入られないよう柵を作ったりとか、立て看板を立てたりしたらしいの。マンガや物語では超能力で見えない壁を作るって方法もあるみたいだけど」

「じゃあ、天狗さんが雨を降らせたのって……」

「いつ、だれが来るかわからない場所で、誰も入って来ないようにするには雨が一番効果的と思わない?」

確かに、あの時すれ違ったおばさんも『車から降りられやしない』って言ってた。

急な土砂降りだったら、(夕立だからすぐ止むだろう)って車の中で待つだろうし。

ぼくたちが石窟のところにいた短い時間に、誰も入ってこないようにするのが目的だったら確かに雨が一番確実かも。

「天狗さん……すごすぎ」ぽつりとつぶやいた。

【なんじゃ、今頃気づいたか?】

 

 「え?天狗さん。はちみつ湯の中にいても、ぼくの声が聞こえるの?」

【どこにおっても聞こえておるぞ。一番長くそばにおるせいか、ぬしの声はよう聞こえる】

「昨日言ってた、波長っていうのも?」

【うむ。ぬしのものが一番よくわかるようじゃ】

「他の人の声や、波長は?」

【そうじゃのう。祖母殿の声はよく聞こえるかの。波長は若干わかるといったところか。昨日ぬしと一緒におった者たちは、声は聞こえるが波長はわからぬままじゃ】

「一緒にいる時間が長いほうが、波長が合いやすいのかしらね?」

おばあちゃんが言った。

「もしかして波長が合ったから、悠斗が天狗さんと出会ったのかもしれないわね」

 

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