石窟 4

 「それって、天狗さんの能力ちから?自然の力をあやつれるって言ってた……」ぼくは聞いてみた。

【そうじゃ。ひさびさゆえ、聞き入れてもらえるかは定かではなかったが、わしのことは忘れずにいてくれておったようじゃ】

「なんで、そんなことがわかるの?」

【さきほどの場所に着いたときに、風が吹いたであろう?】

「うん。涼しくて気持ちがよかった」

【風が、わしに『ひさかたぶりだのぅ』と言うてくれたのじゃ。だから、わしもあいさつを返した。そして石窟におるときに頼みごとを伝えてもろうたのじゃ】

「伝えてって……だれに?なにを?って、風としゃべったの?」

【しゃべったというより、意志を通じさせたという方が正しいかの。に降ってくれるよう、に伝言を頼んだのじゃ。いまのわしでは、じかに雨に頼むには能力ちから不足での】

 

 「でも、あのときはまだ、ぼくのポケットの中だったよね?なのに風が吹いたとか、外のことがわかるの?」不思議に思ったぼくは聞いてみた。

【無論じゃ。ぬしたちの会話もちゃんと聞こえておるぞ】

あ、だから誰かに見られるのを気にしてるって知ってたんだ。

「でも、さあ。風に頼んだって言われても、なんだかピンとこないよ」智生ともきが言った。

天狗さんには悪いけど、ぼくも同じことを思っていた。

おそらくはれん隆之介りゅうのすけも。

【ふむ……我が目で見ぬものは信じられぬか。本来は見世物ではないのだが仕方あるまい。これ、小僧。わしをその地面の上に置くがよい】

「え?地面って濡れてるけどいいの?」

【かまわぬ】

ぼくは地面の上に玉をそっと置いて、離れた。

……ふぅっと、風が吹いたかと思うと玉を中心にうずをまき始め、みるみるうちに玉は空中に浮かびあがった。

そしてぼくたちの頭を超えたずっと高いところまで舞い上がり、落ちてきた。

“コツン!”「いてっ!」

 

 落ちた先は、想像どおり智生の頭の上だった。

「痛いじゃないかよ!なにするんだよ?」

智生の足元に転がった玉を、蓮が拾って渡してくれた。 

【まあ、信じなかった罰じゃの。先ほどの『コケシ』とやらも、どういうものかは知らぬが小僧から動揺の波長を感じたゆえ、あまりよろしきものではなさそうじゃ】

動揺の波長って……あの時玉を持ってたのは智生のはずなんだけど。

「今のって、どうやって飛んだの?」隆之介が聞いた。

【今のか。風に頼んでわが身を浮かせてもろうた】

「もしかして、落ちる場所も頼んだとか??」

【さての。これで、風に頼みごとをしたということはわかってもらえたようじゃな】

……落ちる場所のこと、否定しないんだ。

【それより、よいのか?夕刻が近づいておるぞ】

「あ!いけない!!」

ぼくたちは来たときよりいくらか涼しくなった道をもどり、お店のおばさんにお礼を言って自転車でそれぞれの家に帰った。

 








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