石窟
「水がわいてるのって、きっとこのお堂の裏側だよね?さっき橋の向こうから見た時は裏は森みたいだったんだけど。森の中に水がわいている場所があるのかな?」お堂の前に立って話していたぼくたちからは、裏側は見えなかった。
森の中だったら……探すのが大変かもしれない。
そう、思った。
「どうなんだろう?こっちに裏側へ行けそうな道があるんだけど」
ぼくたちも、後に続く。
「う……わぁ」最初にお堂の裏手に回った隆之介が、びっくりしたような声をあげた。
「す、ごい」
「なになに?なにがあるんだ?」
「え!すげぇ~」
いったい何があるんだろう?
ぼくと
お堂の裏。
そこには森なんてなかった。
あったのは、あまり奥行きが深くない石窟で、森のように見えていた木はその石窟の上に生えていたのだった。
「こんなとこに、こんな石窟があるなんて……」隆之介が言った。
ほんとに、そうだった。
ふつうの石窟なんだけど、なんだか凄かった。
「なんか……雰囲気あるな」蓮が言った。
「お──────い」智生が急に大きな声を出した。
「おい!なんだよ?急に。驚くだろ!」蓮が怒ったように言った。
「いや、さ。石窟ってちょっとした洞窟だから声が響くかと思ったんだ」悪びれもせず智生は言った。
たしかに……ちょっとはそういう気もしたけれど。
でも、ふつうはやらないかも……。
「それで、これがわき水?」隆之介が立ち止まって上を見上げている。
視線の先からは水がポタタッポタポタッ……と落ちてきていた。
「なんだか想像していたのとは違うね。ぼく、地面からわき出ていて池のようになってると思ってたよ」
「あ、おれも」蓮が言った。
「まあ、これでもわき水なんだろうけどね」
「これ、飲めるのかな?」ぼくは聞いてみた。
「霊水としての言い伝えがあるって事は、たぶん飲めるんだろうけど……どうやって?口をあけて上を向く?手をくぼませてためてもいいけど、服がぬれそうでいやだな」隆之介が言った。
「なあ、これな~んだ」ちょっと離れたところで智生が言った。
なにか手に持っているようだけど。
「それって、ひしゃくじゃないかな?」隆之介が言った。
「ひしゃくがおいてあるっていうことは、これにためて飲んでいいって事だよね」隆之介がいくつか置いてあるひしゃくのひとつを持って、水が落ちてきていた場所に戻ろうとした。
「そっちに戻らなくても、ここからもわいてるみたいだぞ」ひしゃくが置いてある場所の向こう側に立っていた蓮が上を見て言った。
蓮が見上げた場所からも、さっきと同じように水が落ちてきている。
「そうだね、でも水の量が少ないから、ぼくはあっちでひしゃくにためるよ」そう言ってひしゃくを手に元の場所に戻っていった。
ぼくもひしゃくを持って隆之介の後に続いた。
続
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