挑戦 7

 「悠斗はるとってば、どうかしたの?さっきから何か考えてるみたいだけど?」隆之介りゅうのすけが聞いてきた。

「歩いてても何だか上の空だし。もしかして暑くて体調悪くなった?だったら今日は無理に行かなくても……」

「あ、体調は大丈夫。ごめん、心配かけて。えっとね、さっきのりゅうの話聞いて、ぼくだったら“自分で考えて行動”なんてできるかな?って考えちゃったんだ。いつも、おばあちゃんやみんなに頼ってばかりな気がして……」

「なーに言ってるんだよ?」智生ともきが言った。

「いっつも一所懸命考えて行動してるだろ?」

「そうそう。決めるまでちょーっと時間はかかるけど、決めたことは曲げないしな」れんも言った。

「今日のもそうだけど、天狗さんに元の姿を取り戻してあげるって活動、やるって決めたのは悠斗だろ?おれたちは話を聞いて、興味がわいたから手伝ってるけど。おれたちがいなくても、ひとりでもやるつもりだったんだろ?」

 

 天狗さんのこと。

たしかにひとりだけでもやるつもりだった。

どうやっていいか、わからなくなって途方に暮れてたかもしれないけれど。

「悠斗は、ちゃんと考えて行動ができていると思うよ。自分で考えて、ひとりではできないと思ったら周りの人に相談する。それでいいと思うよ。ぼくだって自転車のこと頼むのに、かあさんのこと頼ったし。今日の水筒だって、かあさんが準備してくれたし」

そっか。

自分で考えて行動することと、自分だけでやることとは違うんだ。

言われてみるとあたりまえだけど、なんだか新しいことを知った気分がした。

「そろそろ行こうか?」隆之介が出発を促した。

ぼくたちは田んぼの間を進み、その道はだんだんと住宅地に入っていった。

「こんなとこ、来たのって初めてだよ」智生が言った。

ぼくも初めてだ。

たまに、おばあちゃんやママの車で出かけるけど、ここは初めて通る。

「ぼくは、さっき信号を渡った道なら通ったけど。車の中からと歩くのとでは風景が違って見えるね」隆之介が言った。

「全員初めてってことは……冒険してるみたいで面白いな。というか、ほんとにこんなところにわき水がわいてる所なんてあるのか?家ばっか建ってるぞ」蓮が言った。

「もうそろそろだよ。あ!あのカーブの向こうが、その場所だよ」

地図を確認しながら歩いていた隆之介が言った。

 

 両側に家が建っていて、圧迫感を覚え始めてた視界が急に開けた。

広々とした景色が、目の前にある。

そこそこの広さがある川には橋がかかっていて、その向こうにはお堂っぽい建物が建っているようだ。

お堂の後ろは、うっそうとした森のように見えた。

「やっと、着いた~。疲れた~」智生が言った。

「だけど、思ってたよりも早く着いた気がするぞ?」蓮が智生の“やっと”に応えるように言った。

「しゃべりながら歩くと、早く感じるのかもね。時間的には予想通りだったよ。だいたい1時間ってとこかな。本題はこれから。敷地内のどこにか……だね」隆之介が言った。

橋を渡って敷地内に足を踏み入れたとたん、ふうっと涼しい風がぼくたちの間を通り抜けていった。

「おお~、涼しい!暑かったから生き返る」智生が言った。

 

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