挑戦 4

 夏休み初日。

公園に集まったみんなに、ぼくは昨日おばあちゃんの家で目にした不思議な現象を話した。

「へえ。天狗さんって、そういうこともできるんだ」隆之介りゅうのすけが感心したように言った。

「自然の力を意のままに操れるって、すごいことなんだね」

……隆之介ってば、ぼくよりも天狗さんのことを理解してるかも。

「うん。ほんとにそう思うよ。おばあちゃんの風邪がなかなか治らなかったら、わき水の所に行く日がもっと後になってたと思うんだ。だから天狗さんには感謝してる。もちろんおばあちゃんを治してくれたのが一番うれしかったけどね」

「そうなのか?」れんが言った。

「うん。おばあちゃんが風邪ひいてる間、毎日のようにママかぼくがおばあちゃんの家にオカズとか頼まれたものいろいろ持っていってたからね。夏休みになったら毎日ぼくが行くことになってたと思うんだ。そうしたら自由になる時間が減ってたと思うし」

「じゃあ、二重の意味でよかったってことか。風邪が治るのと時間ができるのと」蓮が言った。

「そうなんだ。と、いうことで。いつ行く?」ぼくが言った。

 

 「そのことなんだけどさ」隆之介が口を開いた。

隆之介にしては口調が重い気がするけど?

「この前、ぼく『1キロちょっと』って言ったけど。ごめん。ちゃんと調べたら3キロ近くあるみたいなんだ」

「さ、3キロォ?!」智生ともきがすっとんきょうな声を出した。

ぼくもびっくりして、口がパクパクと動いた。

1キロと3キロじゃ違いすぎるよ。

「そんな距離、おれ歩く自信ないぞ」智生が言った。

隆之介は、ポケットから折りたたんだ紙を出してきた。

広げられた紙は、ぼくたちの市の地図の一部のようだった。

1か所に赤い丸が書いてあって、別の一部分を不規則な赤い線で囲って中をマーカーで色づけしてある、そんな地図だった。

「みんな、これ見てくれる?この赤い丸が、行こうとしている場所。そしてマーカー部分のふちの赤い線が、ぼくたちの小学校の校区の境。で……」言いながら隆之介は地図の1点を指して続けた。

「ここに自転車を置いて歩いていくと、だいたい3キロになるんだ」

 

 「ちょっと待った」智生が言った。

「ここ……」隆之介が指したのとは違う場所、赤い丸と赤い線がいちばん近く見える場所を指して言った。

「こっちの方がずっと近いんじゃないか?」

「そこね。ぼくもそう思って調べてみたんだよ。でも、この地図じゃわかりにくいけど、そこからだともっと遠回りになるんだよ。目印も少なくて迷いやすそうだし。大きな道路を歩いたほうが迷いにくい場所なんだ」

「え~。じゃあほんとにも3キロ歩かないといけないのかよ?」智生が不満げな声をあげた。

「おれは歩くぞ」蓮が言った。

「ぼくも」隆之介も言った。

「もちろんぼくも歩くよ」

「智生、歩くのが面倒なら今回は来なくってもいいよ?ぼくたちだけで行ってくるし」隆之介が追い打ちをかけるように言った。

「くそ~!おれも行きたいに決まってるだろ?歩くよ!歩けばいいんだろ」

 


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