井戸 4

 いつになったら井戸に行けるんだろう?

そう心配してたけれど、案外早くチャンスはやってきた。

悠斗はると、悪いんだけど今度の週末もおばあちゃんの家に泊まりに行ってくれる?」

「ママ、出張?」

「そうなのよ。会社ったらママをにして遠くの仕事をどんどん請けるようになっちゃって。仕事があるのはありがたいんだけど……って悠斗に愚痴ってちゃいけないわね。ごめんね悠斗」

「ううん。大丈夫だよ。おとなって大変なんだね」

「大変ではないわよ。ママの好きな仕事だから」

「ふうん。ぼくも好きな仕事できるかな?」

「あら?悠斗が好きなことってなんなの?『本を読むこと』のほかに好きなことできたの?」

……先を越された。

「ううん、まだ他にはないよ」

「そう。じゃあ、ゆっくりでいいから探さなくちゃね。あ、でも『本を読むのが好き』っていうのは大切なことよ」

「そうなの?」

「本を読む……活字を読む習慣ができてると、この先受験だったり、仕事の資料だったりと文字を読まないといけないことが増えてきたときラクよ」

 

 翌朝ぼくが起きた時には、ママはもう仕事に出かけていた。

それをいいことに、朝ごはんを食べてすぐにおばあちゃんの家に行った。

「ねえ、みやさん」

「なに?」

「あのね、富田神社に井戸があるらしいんだけど、知ってた?」

「ああ、そういえばあるみたいね。その井戸がどうかしたの?」

「あのね……」

ぼくはこの前ママの前だったから言えなかったこと……隆之介りゅうのすけが『天狗が水の神の使いなら、水に関係する場所に分身があるんじゃないか』と考えたこと、学校の近くの池の水につけようとしたら天狗さんに叱られたこと、そして隆之介と智生ともきが井戸の情報として富田神社の井戸の話を聞いてきたことをおばあちゃんに話した。

 

 「そうね……あの神社だったら古くからあるから。天狗さんの時代にもあったかもしれないわね」

「おばあ……みやさん。車で連れて行ってもらえる?できれば友達も一緒に」

「お友達?何人?」

「天狗さんのことを知ってるのは、ぼくを入れて4人だよ」

「うちの車は軽だから、悠斗のほかには2人しか乗せられないわ。それに……」

おばあちゃん、人見知りって言ってたし……やっぱり会ったことがない人は苦手なのかな?

「悠斗にとってはお友達でも、としては、よその家のお子さんを勝手に車に乗せるわけにはいかないのよ。もしも事故にあって怪我でもさせたら大変でしょう?お友達の親御さんに許可をもらってからじゃないとね」

そういうもの、なのかな?

「じゃあさ、今日はぼくだけ連れて行ってくれる?」

この前、井戸の話をしたときに『おばあちゃんが人見知り』って言ったら、とりあえずぼくだけでも連れて行ってもらって、ほんとに“ある”かどうかを確認してみようって話になってたんだ。

「今日?いいわよ」

 



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