井戸 2
「確かに、最近は井戸は見なくなったわね。おばあちゃんの家のお隣さんは井戸水を使ってるらしいけど、地下からポンプで直接くみ上げてるって言ってたし。井戸水を見るだけだったら、バケツに入れてもらえば見られそうだけどね。おばあちゃんに聞いてみようか?」
「う~ん。水だけでもいいけど“井戸”っていうのも見てみたいんだ」
「そう?ちょっと待って」そういってママはおばあちゃんに電話をかけだした。
「……あ、もしもし、こんばんは。私。あのね、悠斗(はると)が友達と遊んでて、なんだか井戸の話になったらしいんだけど。うちのお隣さんって、井戸使ってたんじゃなかったっけ?……あら、そうなの?……うん、うん。……へえ、そうなんだ。もったいないけど仕方がないわね。……うん、うん。あ、悠斗から聞くことはない?」
ぼくはママからスマホを受け取った。
「もしもし、おばあちゃん?」
「『みやさん』でしょ?まあいいけど。なあに?井戸を探してるの?」
「うん。どこかにないかなって友達と話してて。おばあちゃん、どこか井戸があるところ知らない?」
「そうねえ、今、悠斗のママにも言ったけど、お隣さんは去年から井戸は使ってないっていうのよ。なんだか衛生面で指導受けちゃったらしいわ」
「そうなんだ」
「まあ、知り合いにでも聞いておくわね」
「うん。お願いね」
そう言って電話を切ったぼくは、スマホをママに返して自分の部屋に戻った。
「天狗さん?」
ぼくは天狗さんに話しかけた。
【なんじゃ?】
「ごめんね、なかなか元の姿を取り戻す手伝いができなくて……池とか川とかダメなら、もしかして井戸なら?って探してるんだけど、肝心の井戸がみつからないんだ。みんな水道使うようになっちゃってるから」
【すいどう、というのは何じゃ?】
「えっと、台所とかお風呂場とかトイレとかにつながってて、蛇口をひねると水が出てくるの。使いたいときに使いたいだけ出てくるよ」
【使いたいときに使いたいだけ……夜も朝も関係なくか?】
「そうだよ」
【……おぬしらも水を自在に
「自在……かはわからないけど、水道管っていうのがあって、その中を水が流れているんだって。あ、ずっと雨が降らなかったりすると『水は大切にしなさい』ってママに言われたりはするよ」
【なんとも想像できぬものじゃが。まあよい。ぬしは時間がかかっておるのを申し訳なく感じておるようじゃが、少々の時間はかかってもかまわぬ。ここまで待ったのじゃ。いまさら何年か延びたところで、わしには変わりがないこと】
「ええっ!そんな何年もかかったら、ぼくが困るよ。学校とかもあるし」
あわててぼくはそう言った。
続
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