お泊りの日 3

 【わたし、とは祖母殿か?】

「え?私にも聞こえる?」

おばあちゃんがびっくりした顔をして手に持った玉を見ていた。

そしてまた玉にむかって話した。

「はい。私が悠斗はるとの祖母です。じゃあ私の声が聞こえているのですね」

【うむ。よく聞こえておる。ワシの声も祖母殿に届いておるようじゃの】

「はい。ちゃんと聞こえています」

「おばあちゃん、天狗さんとお話しできるようになったの?」

「そうみたい。あまり大きな声ではないけれど、ちゃんと聞こえるよ。悠斗には今の天狗さんの声は聞こえてた?」

「ううん……なにか声が聞こえてるかな?くらいで、なにを話してるかはわからなかったよ」

「そうなのね……一緒に指で触れてみたらどうなのかしら?」

と、おばあちゃんが提案してきた。

「あ、それいいかも!やってみたい」

ぼくがそう言うと、おばあちゃんはリビングの机の上にタオルを敷いて、玉をそっと置いた。

ぼくはおばあちゃんの向かい側に座って、おばあちゃんが指を置いた反対側を指で触れた。

 

 「これでぼくとおばあちゃん、ふたり一緒に天狗さんの声が聞けたら実験成功だよね」

「そうね」

「ねえ、天狗さん」

【なんじゃ?】

「あ!聞こえた」

「私にも聞こえたわ」

「実験成功だね」

「そうね。あ、それはそうと、天狗さん。今のところ滋養強壮にいいからとクコ茶に浸かってもらっているのですが、本来の姿のころは以前お聞きした薬草のほかに何か召し上がっていたものがありますか?たとえば疲れをとったりとか」

【薬草以外となると……そうそう、蜂という虫がおろう?やつらが集めた蜜を食すこともあったぞ】

「蜂が集めた蜜……はちみつのこと?」

「そうみたいね。天然のはちみつってあったかしら?」

おばあちゃんは玉から指を離してキッチンの方に行った。

「天狗さんもはちみつ食べてたの?」

【ぬしらも食するのか?集めるのが大儀であろう】

「ううん。簡単だよ。ビンに入って、スーパーで売ってあるもん。ホットケーキにかけて食べると美味しいんだ」

【びん?それにすうぱあとは、なんじゃ?ほっとけえきもわからぬぞ?】

「えっと。ビンは透明な入れ物で、スーパーはいろんなものが売ってあるところで。ホットケーキは・・・・・・説明がむずかしいよ。おばあちゃーん」

 

「ホットケーキはね、もとを使わないなら、小麦粉にベーキングパウダーや卵、牛乳、砂糖そして水を混ぜたものを鉄板やフライパンで焼いたもの、よ」

キッチンから湯呑を手に戻ってきたおばあちゃんの説明を、ぼくはそのまま天狗さんに伝えた。

【麦の粉はまだしも、べえきんぐぱうだあとはなんじゃ?それに糖に牛の乳に卵とな?……ぬしらは分限者か?とてもそうは見えぬおかしげなをしておるが】

「ぶげんしゃ?」

「お金持ちってことよ。ところで、キッチンを見てみたら天然のはちみつがあったからお湯に溶いてみたんだけど。天狗さんに入ってもらえるかな?」

「うん。天狗さん?おばあちゃんが、いつもクコ茶とは違う、はちみつ入りのお湯を作ってくれたから、中に入れるよ」

そう言って、ぼくは玉をそっと湯呑に入れた。

 


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