お泊りの日 2

 ぼくが天狗さんと話している間に、おばあちゃんはビニール袋から葉っぱを一枚取り出した。

そして葉っぱの先っぽにライターで火をつけて、ちょっと燃やした後、手であおいで火を消して灰皿の上に置いた。

葉っぱからは煙がうっすらとのぼっていた。

おばあちゃんちでかぐ線香のにおいとはちがう、スッとするような不思議なかいだことがないにおいがする。

「ほら、悠斗はると。煙の上に玉をかざしてみて」

おばあちゃんに言われて、ぼくは玉をつまんで煙にあてた。

「そのまま、しばらく煙にあててください、と書いてあるわ」

おばあちゃんは隆之介りゅうのすけのお母さんが書いてくれた説明文を読んでくれた。

「……もうそろそろ、かしらね。煙から離しても大丈夫よ。天狗さんに具合を聞いてくれる?」

 

 煙から離して、ぼくは聞いてみた。

「天狗さん、具合はどう?煙たくなかった?」

【むむ。これは、いかがしたものか】

「え?どうかしたの?なにか変?」

【変ではない。むしろ逆じゃ】

「逆?」

【心地よいと申すか、この上なくすがすがしい心持じゃ】

「天狗さんはなんて言ってるの?」

おばあちゃんが聞いてきた。

「あのね、『ここちよいともうすか、このうえなくすがすがしいこころもち』なんだって」

「それは,スッキリしたと解釈してもよさそうね」

「そうなの?そういう意味なんだ」

ぼくは玉をつまんだまま目の前に持ってきてのぞいてみた。

そういえば、ずっと取れずに残ってたくすみもなくなっている気がする。

「ねえ、くすみも取れちゃってるみたいだよ」

「そうなの?そうしたら、今の状態でクコ茶に浸してみたらもっと効果があるんじゃないかしら?ちょっと待ってて」

そう言っておばあちゃんはキッチンに行き、クコ茶を作って戻ってきた。

 

「ねえ、天狗さん。こんどはクコ茶に入ってもらうよ。まだ少し熱いかもしれないけれど」

【うむ】

ポチャン

クコ茶に玉をつけてしばらくした頃、頭の中になんだかあったかいような、ほっとしたような感覚がわいてきた。

ちょうどお風呂にはいってノンビリ足をのばした時のような……。

え?これってもしかして、天狗さんが感じていること?

今まで毎日入れてたけど、感じたことなかったのに。

しばらくたってから玉を取り出して、水気をふいて天狗さんに聞いてみた。

「ねえ、もしかしてお風呂に入っているみたいに気持ちがよかった?」

【うむ。湯治場で湯につかっているような心持がしたぞ】

「そうだったんだ。なんかね、ぼくの頭の中に『気持ちいい』って感じが伝わってきたから」

「悠斗の頭の中に?」

「うん。なんかね、ぼくもお風呂に入ったような気分になったの。でもぼくは今はお風呂に入ってないから、天狗さんかな?って思って聞いてみたら当たりだったの」

「へえ。不思議なこともあるものね。もしかして天狗さんの力が戻ってきてるのかしら?」

「どうなんだろう?そうだったらうれしいけど」

「ちょっと貸してくれる?」

ぼくはおばあちゃんに持っていた玉を渡した。

「天狗さん?私の声が聞こえていますか?」

 

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