意思疎通4
「『カラス天狗は、水の神様の使い』……?」
「そう。水にまつわる存在のようなのよ。だから“水で浄化”してみようと思う。前に少しだけ調べたけど、湧き水のような天然水だったら短くていいらしいのよ。でも水道だからね……1時間か2時間か。そのくらいはかかると思う」
「おばあちゃんちでやってくれるの?」
「……」
「みやさんちで、やってくれるの」
「もちろん。こんな興味深い話を聞いたんだもの。私も直接話を聞いてみたくなるわ」
時計をみると、いつのまにか11時半になっていた。
「じゃあさ、その“浄化”っていうのをやってもらってる間に、ぼく一度ウチに帰ってきていい?ママに頼まれた買い物もあるし、お昼ごはんも用意してもらってるから取ってくる。あ、あと本も借りて帰っていい?」
「いいわよ。本棚の本は、どれを読んでもいいからね」
「ありがとう!」
ぼくは、おばあちゃんの本棚にある『アルセーヌ・ルパン全集』の中から2冊選んだ。
学校の図書館でも同じ本を借りたことがあるけれど、表現が違うところがあって面白いんだ。
たとえば学校の新しい本は『イギリス人の』なのにおばあちゃんの本は『英国人の』といった感じ。
訳している人は同じなのにね。
そういうとこを面白がるぼくは、
選んだ本をおばあちゃんに借りたバッグに入れ、帰りにスーパーに寄ってママに頼まれたものを買ってウチに帰った。
借りた本を部屋の机におき、同じバッグにママが用意してくれてたおにぎりとカップスープを入れて、おばあちゃんのうちに戻った。
同じ日に二度もおばあちゃんちに行くなんて、めったにないことだ。
「ただいま~」
まっすぐリビングに行き、テーブルにおにぎりとスープを置く。
「ねえ、ポットのお湯もらうよ?」
「どうぞ。じゃあ、わたしも一緒に昼ごはん食べようかな」
おばあちゃんについてキッチンに行き、ポットのお湯をスープのカップに注ぐ。
野菜を食べるスープ……ミネストローネ風ていうの?トマト味で好きなんだ。
おばあちゃんは『昨日の残り物』と言いながらお茶碗によそったごはんの上に冷蔵庫から出した麻婆豆腐をのせてレンジであたためていた。
麻婆どんぶりっていうんだって……麻婆豆腐、辛くて食べられないんだよな。
「あ、浄化ってこうやってやるの?」
シンクにビー玉を入れたコップが置いてあって、ちょろちょろと蛇口から出た水が入ってはあふれ出ている。
「正しい方法というのはわからないけどね、ためた水よりは流水のほうがいいと書いてあったから」
おばあちゃんが教えてくれた。
続
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