意思疎通2

 「てんぐ祭りかあ」

「そうよ。市報に詳しいことが載ってると思うから、帰ったら真智まちに言って見せてもらいなさい」

「おばあちゃ……ここにはないの?」

「ああいうものは、読んだらすぐ古新聞と一緒に出しちゃうから、おいてないのよ。置いておくと、本を置くスペースが無くなっちゃうでしょ。それよりも、私も天狗さんとコミュニケーションとってみたいんだけど。どうやったら可能なんだろうね?」

おばあちゃんはお皿のビー玉をつまみあげた。

そのまま窓から入ってくる光にすかす。

「真ん中がくすんでいるような気はするけれど……。悠斗はるとだったら出てきてくれるかもしれないね」

そう言ってぼくに渡してきた。

「え~?」

ぼくは受け取って、おそるおそるおばあちゃんがやったように、窓の光にすかしてみた。

そして呼びかけてみた。

「天狗さん、起きてる?」起きてる?って聞くのも違うような気がするけど。

 

 【……何用なにようじゃ?】

「あ、よかった。天狗さん出てきてくれた」

【出るも出らぬも、封じ込まれたと言うたであろう?己の意志では出ることはかなわぬわ】

「悠斗?天狗さんは出てきてくれたの」

おばあちゃんが聞いてきた。

「うん。あ、じゃあ、おばあちゃんには聞こえてないの?」

「うん。なにも聞こえてこなかったわ」

ぼくがビー玉に向かって話してた姿にびっくりしたのか、つい“おばあちゃん”と呼んだのにふつうに答えてくれた。

「『何用じゃ?』って天狗さんが言ったから、ぼくが『出てきてくれたんだね』って言って。そしたら天狗さんが『封じ込まれたのだから、自分では出られない』って」

「……その玉を持ったら、声が聞こえるのかもしれないわね。ちょっと貸してくれる?」

ぼくはビー玉をおばあちゃんに手渡した。

おばあちゃんは、さっき僕がしてたのと同じようにビー玉をすかし持ち、声をかけた。

「こんにちは。私の声が聞こえますか?」

……まあ、はじめましての声かけならそんなものかな。

しばらく待ったけれどなにも聞こえてこなかったようだった。

 

 おばあちゃんが返してくれたビー玉に、こんどはぼくが声をかけた。

「ねえ、おばあちゃんの声、聞こえた?」

【いや、何も聞こえておらぬ。わしも、おぬしは誰じゃ?と先ほどのおなごに声をかけたが、聞こえていなかったようじゃの】

それを聞いて、ぼくはおばあちゃんにも伝えた。

「あのね、天狗さんにもなんにも聞こえてなかったし、おばあちゃんにむかって話しかけもしたって」

「そうなの……悠斗を介さないとコミュニケーションが取れないのは不便ね。もしかして封じられて力が弱められているからかしら?」

そうしてしばらく考えてから言った。

「ねえ悠斗、天狗さんに聞いてくれえる?あなたの言葉こえを私も一緒に聞きたいけれど、どうしたらいいですか?って」

 

 

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