意思疎通

 「で、意味がわかったところで。悠斗はるとはどうやって、その天狗さんと意思疎通したの?」

「うーん。それがよくわかんないんだ。拾って、持ってかえって、机のライトにすかして見ようとしたら突然、頭の中に声が聞こえたの。それと一緒に頭がぴりぴりって痛くなったの」

「頭の中、ねえ。マンガやSF小説の世界では“テレパシー”って超能力があるけれど。現代日本で、ねえ。その声は悠斗にしか聞こえないの?」

「わかんない。昨日ママが夕飯よって部屋に呼びに来てくれた時に『声がしてた』って言ってたんだ……ぼく、天狗さんと話すのにふつうにしゃべって答えてたから。だからママに天狗さんの声が聞こえてたかはまではわかんない。すがたが消えた後は声も聞こえてこないし」

「ふうん。なかなか興味深いわね」

「でね、しゃべってる言葉がぼくにはよくわからなかったんだ」

 

 「どんなこと、言ってたの?」

「最初はね“こわっぱ”って言われた。あと“むら”だとか“ぬし”とか。あ、“としはのいかぬ”とも言ってた」

「……古い言葉遣いね。それを聞いてると悠斗が言ってることがのがよくわかるわ」

「わかってくれる?」

「もちろん。いくら悠斗が私のとこに入り浸って本を読み漁っているといっても、まだそういう言葉遣いが出てくる本は読んでないはずだからね」

「うん。はじめて聞いた言葉でめんくらっちゃった」

「あとは?」

「えっとね。なんか、ビー玉の中に入ったのではなく、封じ込まれたんだって。で、元の姿を取り戻すのを手伝ってほしいって」

「元の姿を取り戻す?」

「うん。そう言ってた」

 

 「そういえば悠斗は、天狗さんの姿を見たのよね。どんな姿だったか覚えてる?」

「うん。覚えてる」

「絵には……描けないよね。どんな姿だったか説明できる?」

「えっとね……」

ぼくは昨日見た姿を思い出しながら、おばあちゃんに伝えた。

「ふうん。その姿だとここの市に伝わる天狗伝説のカラス天狗の姿みたいね」

「カラス天狗?」

「そう。市役所の近くとかに像がたっているのを見たことない?」

「市役所って、行ったことない」

「まあ、小学生には用事がない場所だからね。社会見学とかでも行ったことない?」

「警察署と消防署なら行ったことあるけど」

「そんなものかね。じゃあ天狗伝説も聞いたことがないのね。あれ?でも悠斗お祭りには行ってるんじゃないの?ほら、2年に1度天宝てんぼう公園でやってるやつ」

「お祭り?去年行ったやつ?」

「そうそう。フリマで面白そうな本見つけたって見せてくれたじゃない?あのお祭り、てんぐ祭りっていうんだけど?」

「え?そうなの?ぼくふつうに秋祭りだって思ってた」

 

 


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