天狗?の言い分

 【わしは、そんな鼻はしておらんぞ。空は飛べるがな】

「鼻が長くない天狗なんているの?」

【わしは、わしと違う姿の天狗てんぐは見たことがない】

ぼくが絵本で見てた天狗じゃない天狗?

「ねえ、じゃあ天狗さんは、どんな姿をしているの?」

【ふむ……そのくらいの能力ちからは残っておろう。おぬしが持っているたまの中をのぞいてみるがよい】

ぼくはまた机のライトを点けて、かざしてみようとした。

【その!日輪をわしに近づけるでない。まぶしうてたまらぬ】

声と共に、またぴりぴりとした痛みが走る。

「いたたた。え?日輪?これ、ライトって言うんだけど……」

近づけてはいけないと言われたので、仕方なく天井灯の光の中で見ることにした。

……天井灯に直接むけるのは、やめておいた。

 

 じっと中をのぞきこむと、さっき見えたみたいなものがもやもやと動いて、だんだん色が濃くなって、なにかの形を作っていった。

しばらく待つと、その姿はくっきりとした形を持った。

絵本で見た天狗が着ていたような見慣れない着物を着て、手には何ももっていないようだった。

絵本の天狗は、たしか葉っぱで作ったうちわみたいなものを持ってたと思うけど。

そして背中には鳥のような羽が生えていて、その顔には……長い鼻ではなく鋭く尖ったがついていた。

「くちばし…?」

【どうじゃ?これが、わしの姿だ】

初めて目にするモノに面くらって何も言えずにいたら、また声が聞こえた。

【どうじゃ?ぬしが言ってるような長い鼻など、どこにもついておらぬであろう】

まじまじと見ていると、ビー玉の中の姿がぼやけだした。

【ふむ……思った以上に堪えるわい。さすがのわしも草臥くたびれた。これで消えるからの】

そう言ってビー玉の中の姿が見えなくなった。

「あれ?消えちゃうの?天狗さん??」

 

 え……?

今のは、なんだったの?

ママに聞いてみようかな?

でもママは今のを見ていないし……話を聞いてくれても、ぼくが本やマンガばっかり読んでるから、作り話だって笑っちゃいそう。

明日、れんたちに聞いてみようかな?

隆之介りゅうのすけだったら色々知ってそうだし。

あ!そうだ。

おばあちゃんだったら、何か知ってるかもしれない。

いつなにを聞いても、なんにでも答えてくれるもん。

“天狗さん拾った”って言ったら、なんて言うかなぁ?

あとでママに、おばあちゃんちに遊びに行っていいか聞いてみよう。

あ~あ、早く中学生になりたいな。

『小学生の間は、校区外に自転車で行くときは保護者の許可をもらうこと』なんて決まり、めんどうだよな。

そう思ったとき、部屋のドアをノックする音がした。

 

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