声の主

 【いったい、なんじゃ?ぬしは手元に日輪にちりんを持っておるのか?】

また、声が聞こえた。

えーと……ツッコミどころが満載で、どう答えていいのかわからないや。

「あの、えっと。まず、こわっぱってなに?」

とりあえず聞いてみることにした。

【こわっぱは、こわっぱじゃ】

「だから、なんのことなのかわからないから教えてって」

【……わからぬのか?ふむ。おぬしのような年端のいかぬものたちをこわっぱと呼んでおる】

「としは……って?」

【年端もわからぬのか】

「うん……」

【おぬしの村のおさは、なにをしとるのだ。こういうものどもに文字や算術を教えるのも務めであろうに】

 

 むら?ってきこえた気がするけど。

それって社会の授業の『昔のくらし』ってやつで聞いた言葉だよね?

たしか“村”って書いたと思うけど。

「ねえ、ここは村なんかじゃないよ。ここは豊入とよいり市だよ。それに長とか算術っていうのもわからないんだけど?」

【……わしには、その“し”というのがわからんぞ?】

話がすすまない。

というか、いったいどこから声は聞こえてくるのだろう?

「ねえ、わからない言葉だらけなのも気になるんだけど。おじさん、いったいどこにいるの?どこからぼくに話しかけてるの?」

と呼びかけるのは何か違う気がしたけれど、少なくとも大人の男の人の声みたいだったので、そう呼んでみた。

【おじさん?それがわしをよぶ言葉か?失礼なこわっぱだ】

「だって、なんて呼んでいいかわかんないんだもん」

【まあ、よい。わしはぬしの目の前におる】

目の前と言われても。

ぼくの前には机があって、その上には本棚から出しただけのマンガと筆箱があるだけ。

 

 だけど、昨日までは声は聞こえなかったんだから。

「もしかして、これ?」

ぼくは拾ったビー玉をつまみあげた。

【そのとおりじゃ。わしは中におる】

「おるって言われても。どうやって入ったの?」

【入ったのではなく、封じ込まれたのじゃ。おぬしのようなこわっぱに頼むのは心もとないが。わしが元の姿を取り戻すのを手伝てつどうてはくれまいか?】

「頼むって言われても。おじさんが誰で、元がどんな姿だったかも知らないのに?そんなの無理だよ。というか、おじさん誰?」

【誰と問われても。わしには名乗る名前がないしの】

「名前がないの?じゃあ、なんて呼ばれてたの?」

【村のものたちは、わしのことを“天狗様てんぐさま”と言うておった、他の呼ばれ方はしたことがない】

「てんぐさま??昔話に出てくる、赤い顔で鼻がにょきっとしてて、空をとべるアレ?」

 

 


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