入れない

 智生ともきがさらに追い打ちをかけたので、れんはその場にガックリとひざをついた。

「それを言うなよ~。これでも、気にしているんだ」

智生が言う“その体格”、蓮は小学4年生で150cmある。

それだけだったら『背が高いんだね~』で終わるけど問題は体重。

春の健康診断で、なんと53kgだったっていうからビックリ。

ぼくなんか30kgにもなってないのに。

でも、大きいけれど太っているわけじゃない。

運動は大得意で、かけっこなんてクラス一早いんじゃないか?って思うくらい。

本人も“将来の夢はプロ野球選手かJリーガー!”って言ってるし。

実際、なれちゃうんじゃない?というのがクラスのみんなが感じていることだ。

 

 だけど、どんなに運動ができても物理的な問題はクリアできないらしい。

問題の穴はくらい、せまいんだ。

もっと小さいときに入ってたら、横穴の存在を知ってただろうけど、蓮は4年生になる時に転校してきて、そのときにはもう今の体格だったから知る機会がなかったんだ。

智生もりゅうも小さい時に隠れてたけど、今ではもう無理らしいし。

ぼくも、いつまで隠れられるかな?


 「それにしても、そんな穴があるとはな~」改めて蓮が言う。

「あるけど、あっても無意味だよね」と隆之介りゅうのすけ

「1年とか2年はまず力がないから、はしごを上れないから気づかないし。おれたちくらい力がついても、今度は体が大きくなって入れない。まさか悠斗はるとのためだけに作ったとか?」と智生。

「え~?ありえないよ、そんなの。だって、ぼくたちが生まれる前からあれ、あったじゃない」

「わかってるって。冗談だってば」笑いながら智生が言う。

隆之介も蓮も、つられて僕も笑った。

「それはそうと、もう一回やるんじゃなかった?かくれんぼ」蓮が言った。

「あ、そうだった。じゃあ、最初はグー……」隆之介がじゃんけんの音頭を取ろうとした時、公園に設置されているスピーカーから夕方5時を知らせる音楽が聞こえてきた。

ぼくたちの市内で朝の7時と夕方の5時に流れる、耳になじんだメロディ。

 

 「なんだよ、もう5時かよ」残念そうに蓮が言った。

「まだこんなに明るいのにな~。こっそり続ける?」ぼくが言う。

「だめだよ。一応学校からも親からも、音楽が鳴ったら帰ってきなさいっていわれてるんだし。また明日、遊べばいいだろ?どうせ休みなんだし」

隆之介に従って、ぼくたちは“また、明日!!”と口々に言って、それぞれの家に帰った。

拾ったもののことは、みんなすっかり忘れていた。

 


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