2話 歌と声(8/8)
余計な装飾品の無い部屋には、シンプルな木目の二段ベッドと机が二つあった。
壁紙と天井は淡いブルー。窓には深いブルーのカーテンが閉められている。
少年が座る壁際の机にはPCのディスプレイが二つとキーボード、大きめのヘッドホンが置かれ、横に置かれたキャビネットには薄型の音楽キーボードが乗せてあった。机の下にはPC本体が時折チカチカとランプを光らせている。
背中合わせに置かれた机の上には紙が何枚か広げられていて、髪を一つに括った背の高い少年が窮屈そうに背を丸めてタブレット端末に直接ペンを走らせている。
線を引くシュッと小さな音に時折マウスのクリック音がするだけの静かな部屋で、PCに向かっていた黒ぶちメガネの少年が口を開いた。
「……どうしよう大地」
大地と呼ばれた長い髪の少年が、手を止めて振り返る。
「ん? 何があった?」
「RINE……交換したいって、言われたんだけど……」
トイッターのDM画面を指す少年の指先は震えている。
「へー。積極的だなー」
大地は画面の文字をざっと読んでから、また元の机に向かう。
「……断った方が、いい……よな?」
「何でだよ、繋がってやればいーだろ」
メガネの少年は自分のスマホを手に取るとRINEを立ち上げながら言う。
「RINE……、父さんと母さんに、兄ちゃんとおばあちゃんと従兄と、大地しかいない。……友だち」
その言葉に、大地がグルンと回転椅子ごと後ろを向いた。
「マジかよ!? ぶははっ! ホントだ。6人っっっ」
メガネの少年の後ろからスマホを覗き込んで、大地が笑う。
「……大地はどうなんだよ」
少し拗ねたような声に、大地は自分のスマホを取り出した。
「今なー、何人いたっけなぁ? 俺はー……73人だな」
「……多いな」
「ほとんど喋ったことねー奴もいるし。付き合いでグループに呼ばれたりすっから、数だけは増えてっけどそんな喋ってるわけじゃねーよ」
「そうか……」
「そんで、なんで断ろうと思ったんだ?」
「いや、そんなに親しくない相手だから……」
「だから誘われてんじゃねーの?」
「?」
「相手は、お前と仲良くなりたいって思ってくれてんだよ。お前が相手と親しくなりたくないってんなら断ってもいいだろーけどさ、そうじゃないなら繋がってみればいーんじゃね?」
「…………そうか……」
「ん。RINEは別に仲良しとだけ繋がるツールじゃねーしな」
「分かった。ありがとう大地」
スマホを机に置いてキーボードに手を伸ばした少年のもさもさした頭を、大地がぐしゃぐしゃと撫でる。
「ま、なんかあったら遠慮なく相談しろよ」
「うん、ありがと。あ、大地はイメージ固まった?」
問われて、大地が何枚かの紙とタブレットの画面をメガネ少年に見せる。
「まあ今んとここんな感じだなー。あんま動きなしでコマ送りっぽいのにしたかったんだけどさ、どうしてもこことここは動かしたいっつー欲が出てなー……」
「別に期限はないんだから、大地が納得するまで描いてくれていいよ」
「つってもなー。俺には俺で、他にやりたい事もあるんだよなぁ」
「……いつもごめん」
「別に謝るとこじゃねーだろ。これも俺が好きでやってる事のひとつだし。あ。もう二人に言っていいぞ。俺が絵つけるって」
「分かった」
答えて、メガネの少年は小さく微笑んだ。
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