3話 スタンプと言葉(1/7)

ああ、朝の空気が美味しいなあっ!

あれから私は、もう七日も続けて遅刻せずに……どころか、小学生の双子たちと毎朝一緒に家を出ていた。

アラームを空さんの音楽にしたおかげか、それとも会長のイケボのおかげか……。

うーん、両方かなっ。


このくらいちゃんと毎日余裕持って出られるなら、また朝から坂の下でミモザと待ち合わせしてもいいなぁ。


昨日は嬉しい事もあって、自然と足取りが軽くなる。

世界中の人に自慢したいくらいの気分だ。

坂の中頃まで上ったあたりで、校舎の方から会長が出てくるのが小さく見えた。

あれ? 会長が挨拶当番に遅刻する光景なんて、初めて見たような気がする。

それとも何か別の用事があったのかな?


「皆おはよう。遅れてごめん」

パタパタと駆けてきた会長が他の生徒会の人達に頭を下げている。

そんな会長の頭を、書記の新堂さんがぐいと引き寄せて何やら話している。

「おー? お前が遅刻なんて珍しいな。昨日は遅くまで話してたのか?」

「いや、朝からクロにゲロ吐かれた……足の上に……」

「ぶはっ、避けろよ。ゲロくらい」

ぽいと会長を手放して、新堂さんが何やら笑っている。

「避けたら絨毯がやられるから。靴下洗う方がまだマシだろ」

「でもお前、靴下だけじゃなくて足も洗うことになったんじゃねーの?」

「うん……それで遅れた。ごめん」


何の話だろう。洗濯の話? ちょっとしょんぼりしてる会長が、なんだか不憫なんだけど……その……ちょっと、可愛いなんて思ったら失礼かな。


私は、私の有り余るハッピーと元気を分けてあげられるように、今日も元気に挨拶をする。

「おっはよーございまぁぁすっ!!」

「おはようございます」

あああ、会長のお声は今朝も最っ高に甘く優しいイケボですねっっっ!!

なんだか今日の会長の低音ボイスはいつもよりさらに甘くて優しい気がする。

気のせいかな? 私が舞い上がってるからかも?

「今日も朝から元気いいなー。つかめちゃくちゃご機嫌だな?」

あれから新堂さんは時々こんなふうに声をかけてくれるんだよね。

この人はどうも、ここを通る生徒の三分の一くらいには話しかけてるように見える。顔が広いというか……元々フランクな人なんだろうな。

「えへへー。分かっちゃいます?」

「……まあ中学にもなってスキップしながら登校されればな……」

新堂さんのツッコミは聞かなかったことにして、私はウキウキの理由を自慢する。

「憧れの人とRINE交換しちゃったんですよーっっ!」

「へーぇ? よかったなー」

「はいっ!!」

新堂さんの軽い返事をもらって、私はそのままスキップで下駄箱に向かう。

会長さんにも『よかったね』ってあのイケボで言ってもらえたら最高だったんだけど、もう私の後ろに次の人が来てたし、そっちを見てたんだろうな。


後ろを振り返らなかった私は、全然知らなかった。

会長が、私が通り過ぎた後、どんな顔をしていたのか。

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