第105話
煉チャンネルが投稿した樹妖精ドリーの『霊草採取』動画の影響は様々な所に波及していく。優弥が運営してる公式SNSにはドリーの出演を望む声が多く寄せられているらしい。
それだけなら問題はないが、幾つかの企業からは真逆の提案が来ていた。
「ドリーにカメラは渡してる。来栖さん曰く色々やってるらしい。ドリーは、気にしないでほしいのって言ってたが」
「そうなんだ」
「データは渡す。動画にするかどうかはお前が決めろ」
「煉の意見は?」
「まあ探索者的にはドリーの技術が広まるのは嬉しい。...俺は兎も角、お前が恨まれるのはどうかと思うが」
「...まあどうせ一つの企業と契約したら他から恨まれるんだから関係ないけどね」
それらの企業の提案は、まだ投稿していないドリー出演の動画の元データを買い取ると言うのモノであった。企業側が提示してきた金額は1本の動画投稿で得られる広告料を遥かに上回る金額であった。
とは言え、煉はそもそも金に困っていないし、煉がよく利用している企業からはこのような提案はされていない。となればこれを受け入れる道理はない。単純な話である。しかしこの単純な話にも慎重になってしまうほど、ドリーの動画の影響力は凄まじいものであった。周りに何をされても1人で何とかなってしまう煉は兎も角、優弥は慎重になっておく方が良いだろう。
「俺はそろそろ行く」
「回復ポーション回収だっけ?」
「摩耶さんが面白いダンジョンを紹介してくれたからな。その攻略のついでに出来る依頼だ」
「...へー」
煉の扱い方が上手いと優弥は感じるのだった。
―――――――――――――――
『採取者』が納品した『霊草』によって造り出されたポーションが販売されたというニュースが流れた。実際に『霊草』を使って今までと同品質のポーションが造り出される事が証明された。これにより真に『採取者』やポーションを作る技術やスキルを持つ者たちの時代が到来したと言ってもよい。
この結果、これまで医療産業で覇権を握っていた回復魔法や回復系のスキル持ちたちの影響力が低下することになる。
とは言えダンジョン探索において回復技能を持った者の存在は欠かせないし、ポーションが欲する者全員に配られるほどの供給量がある訳もないので、影響力の低下はそれほどでもない。高位の回復技能持ちは特に。
「採取者が増えればそれだけポーションの供給量が多くなりますし、『霊草』ほどじゃなくても薬草の品質はあの日以降上昇し続けているとの報告もあります」
「低位の回復技能持ちがポーションに取って代わられるか」
「これまで回復技能に胡座をかいていた者たちが奮起する切欠になれば良いが...」
「難しいでしょう。既に『治療院』から協会の方にクレームめいた要望書が届けられています」
「あそこか。...これまでのことを考えれば無下にはできんな」
『霊草採取』動画は世界をより良い変化をもたらした。しかし現状に満足している者たちの中には変化を望まない者もいる。それが良い変化であっても。
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