第91話
国際カンファレンス会場から離れた別荘跡地、そこには切り刻まれ粉々になった別荘の残骸と、モンスターの亡骸が転がっていた。
「...うざい」
「いやー、想像以上で驚いたよ。呼び出したモンスター軍団がものの数分で細切れとはね」
「...お前を斬る」
「それは困るな。今の君だと本当に斬られそうだ。遊びで怪我するなんて馬鹿らしいじゃん」
空間にできた裂け目から次々と出現するモンスターたち。ダンジョンの氾濫のような現象が地上で起きていた。しかも出てくるモンスターたちは、特級ダンジョンの深層に居るような強者ばかり。そんなモンスターだが、裂け目から登場すると同時に鈴に切り刻まれ絶命し続けていた。
「まあ流石に申し訳ないから君専用の特別製だったんだけど、物足りなさそうだね」
「...当たり前」
「なら僕の思い通りを打ち砕いてみなよ」
「...斬る!」
鈴は主人に向かって駆け出す。いつもならば苦もせず切り刻める距離にいるのだが、鈴は気が付くと元の場所に戻されていた。先ほどからこれの繰り返しである。
「『傲慢』な僕は思っている。君は僕の元には辿り着けないと。ほら思い通りになった」
「...うざい。...し、ね!」
「っ!」
鈴を煽るような口調にイラついたのか、斬擊を飛ばす鈴。突然の行動転換に虚を突かれた主人は対処が遅れ、斬擊が主人に直撃する。
「...誰も僕を害せないってね。あーびっくりした」
「...チッ!」
「それにしてもミナミの時は何もできなかった子がここまで成長するとは驚きだな。しかも探索者の一番の武器を持たずに」
「...だまれ」
「君には期待してるんだよ。君なら一番最難関だと思ってる原初スキルを習得する資格があるからね」
そういうと主人は鈴に微笑む。
「さてとそろそろ撤収させて貰うよ。もう少し君と遊んでもいいけど『ロイヤル』が君の弟子に負けそうだ。下手に放置すると殺されかねないからね」
「...煉か。 ...ユラは?」
「ユラくん? 彼女の相手は『スロウ』だ。残念ながら勝敗は始まる前から決まってるさ」
「...なんだと?」
「勘違いしないでね。『スロウ』が勝てる訳がないという意味だよ。彼の信条は【働いたら負け】だからね。彼の戦いは始まった時点で負けてるんだよ」
「...くだらない」
「そうかな? 信条は大切だよ。君が戦いに重きを置くように、人の信条を知ればその人がどんな行動をするか見えてくるものだよ」
主人はそう言い残し虚空に消えていった。残されたのは鈴と空間の裂け目からなおも湧き続けるモンスターたちだけであった。
「...匂いが消えた。...信条か」
―――――――――――――――
渋谷にある研究室で、いつも通りダンジョンアイテムの開発をしていた来栖の元に昔馴染みから電話が掛かってきた。
「もーしもし。え? 動画? いーいよ」
内容は、1つの動画を見ろとのことであった。電話を切ったら直ぐに送られてきた動画のURLをクリックすると、直ぐに動画は再生された。そこには忘れられない男が愉快に話していた。
「...『プラド』、なんで」
かつてダンジョンを攻略中の自分たちの元に訪れ、強力なモンスターを大量に呼び出すことで『ミナミの惨劇』の引き金を引いた男。
そのとき『プラド』と名乗った男は、この動画で言っているようなことを口にしていた。
「『選別』...原初スキル持ちを? それとも...煉くん」
かつて『プラド』は『ミナミの惨劇』の後、自死した彼に興味を持っていた。それは原初スキル持ちとしてなのか、一個人としてなのか来栖には分からない。しかしどちらにしても彼とどこか似ている煉を『プラド』が放って置くようには思えなかった。
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