第90話

『ロイヤル』の忠義に感染していた者最後の1人が倒れる。グラルを飼い慣らしている煉にとって、希釈された忠義のみを狙い打ちして喰らうようにする事も容易である。

 そして忠義を喰われた者たちは脱け殻のように呆然とした後、倒れていった。


「これで似非信者はいなくなった。後は...お前だ」

「これが主人の目に留まった英雄。流石です」


 取り巻きを失った『ロイヤル』であるが、その態度に変化はない。端から取り巻きを当てにしていなかったようだ。


「思考誘導はおまけか。それでも『忠義』の付与で他者に原初スキルの耐性を与えられるのは強いが」


 『忠義』を感染させ思考を操る。これは『色欲』の権能に被る。しかし『色欲』よりも精度ははっきりと落ちるため、これが主の効果とは思えない。しかし副次的な権能で、原初スキルの所有者と同等の耐性とはいかぬものの、怠惰が撒き散らされる中、『天廻』が銃を構えられる程度の耐性は付与できるならば十分強力と言える。


「それではそろそろ私がお相手になりましょう」

「それで主な効果が自身の強化...しかし強化率が大きすぎるな」


 正確に強化率を割り出せる訳ではないが、『ロイヤル』が持つ元々の魔力と『忠義』によって強化されたであろう魔力を『魔力感知』によって見分けることで、暫定的に強化率を算出してみると、既存のバフスキルが馬鹿馬鹿しくなる程の代物であった。


 『ロイヤル』が目にも留まらぬ速さで煉に接近する。『忠義』によって強化された『ロイヤル』の速度は煉を凌駕しており、剣は瞬時に煉の目の前に到達する。


「魔力だけでも5、6倍。それと同時に身体能力やらも数倍は強化してるだろう...流石におかしい」

「は!」

「忠義を捧げるとか言ってたから、忠誠心によって強化率が変わるのか? 俺には使いこなせないタイプのスキルだな」


 しかし煉は動じることなく対処する。煉にとって自分よりも速く強い敵など既知の範囲内である。


「『忠義』を捧げている私と普通に渡り合えている貴方の方が私にはおかしく感じます、が!」

「まあ、自分よりも能力値が高いことは往々にして起こり得る」

「そうだとしても!」


 確かに『ロイヤル』の能力値は煉を大幅に上回っており、かつて煉が討伐した総帥蟻のように能力値は高いが、動きが粗くなるようなこともなく、高まった能力値を十全に扱いきる技術を持っていた。

 しかし『忠義』によって高まりすぎた魔力が、『ロイヤル』の動きを煉に教えてくれた。


「とはいえ防戦一方は趣味じゃない! 『暴食』」

「な!」


 『ロイヤル』の剣が煉に迫る中、煉は防御ではなく攻撃を選択する。グラルの『暴食』を発動してのカウンター。防御に徹していた煉の突然の反撃に虚を突かれた『ロイヤル』は回避することもできず、グラルを諸に受ける。すると『ロイヤル』を強化していた『忠義』と『暴食』が反発し打ち消しあう。

 その瞬間、『ロイヤル』の強化が消え通常状態に戻る。煉はその一瞬を見逃さない。


「...これで攻守交代だ」

「本当に流石です」 


 煉が『暴食』を発動しながら攻撃を繰り返す。通常の能力値では煉に劣る『ロイヤル』が『暴食』から身を守るためには『忠義』を発動し打ち消し合う他ない。

 強化ではなく防御のための『忠義』発動が繰り返される。完全に攻守が入れ替わった瞬間である。


「あとは『忠義』の発動が無制限でないといいが」

「さて、どうでしょうか」


 煉と『ロイヤル』の戦闘はもう少し続きそうであった。

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