第52話 不可逆ダンジョンの最後
『蟲の女王』を倒した。その結果1つのダンジョンを構成する何かが崩壊し、その一部が煉たち3人に流れ込んでくることが感覚的に理解できた。これが不可逆型ダンジョンを踏破した報酬であることを。
つまりこれから起こるのはダンジョンの消失である。ただ世界的にも不可逆型ダンジョンの踏破は例が少ないため消失がどのような形で起こるのか謎な部分が多い。
「今のところ変化はないの。じゃがこれからどうなるか分からんけん、さっさと帰還した方が良いの」
「そうですね。おい煉坊…煉坊?」
「お二方は先に帰っておいてもらいますか? 自分は不可逆型ダンジョンの最期を見ていきたいので」
「了解じゃ、それで当初の予定どおりでいいんじゃな?」
「…はい。負担かけますがよろしくお願いします」
そう言って煉は頭を下げる。それを見た2人は複雑そうに煉を見つめる。
「でも本当にいいのか? 今回の討伐に参加したことを公表しないで」
「え? はい」
「理由は聞いたが、手柄を横取りしてるみたいでな」「その分面倒も押し付けてるので気にしないでください。それにドロップとか諸々貰えるんですよね。ありがとうございます!」
2人に事前に提案していたことがあった。それは煉が今回の討伐には参加していないことにすることである。なぜそんなことをするかと言えば、今までの感覚で探索要請を受けたり断ったりすることが出来なくなってきたと感じたからである。配信を初めたことで無駄に有名になった煉の行動に注目する暇人が増えてしまったのだ。
その結果、興味の無いダンジョン探索を断っただけで大事になってしまった。それを解消するためには参加しなかったという実績が必要なのである。
世間も協会や政府も獣太と虎太郎だけで踏破できたとは考えないかもしれないが、公式の記録では2人での踏破として名が残るだろう。そうなれば完全な火消しは出来ずとも面と向かって2人を叩く輩はいなくなるだろう。
「うーむ、煉の思惑通りにはいかんと思うんじゃがな」
「自分を過小評価してしまうのが煉坊の弱点ですから」
2人の内緒話は、踏破された不可逆型ダンジョンの観察に夢中な煉の耳には届かなかった。
―――――――――――――――
福岡の大規模ダンジョンでのダンジョンブレイクの危機は、2人の特級探索者によって解決された。しかしその2人は先の討伐作戦に失敗した際の中心的な探索者であり、ネット等で炎上中の人物だっただけに2人のみでの踏破に懐疑的な意見が目立った。福岡で煉らしき人物の目撃情報が多発したため、煉も踏破に関与しているのではと騒がれたが、2人が探索している時間、偶然にもダンジョン速報の定点カメラのメンテナンス中であり、本当に煉がいたかどうかは分からない状況となっていた。
「我々としましても2人の踏破を疑うだけの証拠がありませんので――」
「探索者の煉さんが踏破に関与したのではとの意見もありますが、それについてはどうお考えですか?」
「協会として発表できることはありません」
「誰がダンジョンを攻略しているのかわからないというのは管理が杜撰だと言わざるを得ませんが?」
「それについては大変遺憾に感じております」
そのため福岡探索者協会が行った記者会見も協会側は録な受け答えが出来ない状況であった。
「先の失敗した協会主導の作戦で、メンバーであった二人のみでの踏破ということですが、作戦に何らかの不備があったと言うことでしょうか?」
「不備は無かったと考えております」
「それではなぜ先の作戦では死者を出す程の失敗に終わったのでしょうか? 世間からは福岡の大規模ダンジョンが消失することに反対している議員や有力者への忖度ではないかとの声もありますが?」
「そのような事実は一切ありません!」
2人で踏破したという公式記録によって、何を言っても墓穴を掘るような状況に追い詰められた福岡探索者協会への集中砲火はまだまだ続くのだった。
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