第39話 王剣グラル

 煉としてもこんなに早く『スキルオーブ』が使用されるとは思っていなかったが、東藤会長にとっては本当に寝耳に水な話である。流石に確認しないわけにはいかない。


「君にも都合があるかもしれないが、一緒に来てもらうよ」

「…はい」


 流石にここで断るのは申し訳ないので煉は空気を読み一緒に来栖の研究室まで行くことになった。


 研究室に到着すると東藤会長は迷うことなく進んでいく。会話の節々から知り合いであることは伝わってきていたが、会長がここに来たことも1度や2度ではなさそうである。


「おーレンレン…と東藤センパイ」

「久しいね来栖くん。君が造り出した『暴食』が付与された武器を見学しに来たよ」

「うわー、怒ってますね。やっぱり協会長なんて似合わない役職に就いたからストレスが溜まるんじゃないですかー?」

「今は、君のせいでストレスが溜まってるんだけどね」

「はは、まあいいや。それよりもレンレン。はいこれ」


 東藤会長との会話を打ち切り来栖は煉に刀剣を手渡した。受け取った刀剣から煉は何故だか目が離せなかった。


「これの名前は『王剣グラル』、魔剣にすることで『暴食』の主食を魔力にしたの。『暴食』を強く発動させない限り、レンレンから少量の魔力を食うだけで維持できるよー」

「おお」

「『暴食』を発動するときは大抵モンスターと戦うときだから、モンスターを食べさせれば問題ないよ」

「流石です」

「えっへん」


 魔剣とは魔力を流すことで強化される剣の総称である。それを短時間で作り、さらに『暴食』を付与し、所有者と紐付けて『暴食』に所有者の魔力を食べるように設定する。こんな剣を1週間もしないうちに完成させる来栖は流石としか言いようがない。


「来栖くん。君の『発明』にはいつも驚かされる。より洗練されているね」

「そうですかー?」

「ただ無理をしてはいけない。それと暴走してもいけない。私も『ミナミの惨劇』の当事者の1人だ。一言くらいあっても良かったのではないか?」

「…流石に東藤センパイに止められたら造れないからねー。黙ってたよ」

「はぁー、まあ本来、探索で得たモノをどう使うかは探索者本人に委ねられている。あまりとやかくは言いたくないが、協会長として幾つか言わなくてはならないんだ。分かってくれ」

「りょーかいです」

「それと!」


 言葉を区切った東藤会長は、目線を煉の方向に向けて言う。


「先ほどから新しい武器に心を奪われている所悪いが、煉くんにも言わなければならないことがある!」

「あ、はい?」

「聞いてないな!」


 煉は『王剣グラル』の試用をしたい一心であり、残念なことに東藤会長の言葉は、右から左に流れていってしまうのだった。

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