第38話 原初のスキル

 『スキルオーブ』の詳細について公開したところそれなりの反響があったらしい。しかしそのせいで現在煉は探索者協会の本部に呼び出されていた。拒否することはできたのだが、今回は協会長直々の呼び出しということもあり素直に従ったのだった。

 協会本部に着くと受付の人に顔を知られていたのか、簡単な手続きを終えたら直ぐに会長室に案内された。会長室の前には秘書らしき女性が立っていた。


「どうぞこちらへ。会長、煉さまがご到着されました」

「そうか。入ってくれ」

「…失礼します」


 会長室にて煉を出迎えたのは東藤剛毅。煉が子どもの頃日本で活躍していた探索者であり探索者を引退してからは、協会長として様々な改革をした人物として知られていた。探索者に寄り添う姿勢に、旧態依然の協会で猛威を振るっていた者たちからの反発も多い苦労人でもあった。


「申し訳ない。本来なら此方から訪ねなくてはならないところ呼び出してしまい」

「気にしないで下さい」

「そうか、ありがとう。さて長話もなんたから早速本題に入らせていただこう。まずは渋谷、そしてクリアフィを救ってくれたことに対するお礼と、その件で協会が君に多大な迷惑をかけたことへの謝罪からだ――」

「いえ、それに関しては特に必要ありません。気にしてないので」

「そ、そうか?」

「それよりも呼び出しの用件は『スキルオーブ』ですよね?」


 煉にとってはお礼や謝罪も省略してほしい長話と変わらない。煉にもやましいことがあれば別だが、今回は協会側が全面的に悪い流れなのでこのくらいの横暴は許されるだろう。


「君がそれを望むなら『スキルオーブ』について話そう。お礼と謝罪の品は帰りにでも貰っていってくれ」

「はい。分かりました」

「…君が悪食を倒して入手した『スキルオーブ』の中のスキルは、解析結果からほぼ間違いなく原初のスキル『暴食』だと判断された」

「原初のスキル? 『憤怒』も同じですか?」

「『憤怒』を知っているということは…来栖くんか。『スキルオーブ』を解析したのは」

「そうです。知っているのですか?」

「まあね。なら話は早い。この原初のスキルは全部で何個あるのか判明していないが、現段階では3つ確認されていた。今回で4つ目だ」

「4? 来栖さんは…ああ大罪系のスキルは2個目って言ってただけか」

「実際、原初のスキルについては公開されていないから『憤怒』以外に来栖くんが知らないのも無理はない」


 そうして現在判明している原初のスキルについての情報を煉に見せてくれた。


『忍耐』

 スキル発動中、どのような攻撃にも耐え忍ぶことができるが、スキル発動中は行動する事は出来ない。

 現在の所有者はドイツにあるダンジョンのダンジョンボスであり、『忍耐』によって攻略不可状態


『勤勉』

 スキルを発動すると目の前にある問題を解決するまで自身の最高のパフォーマンスを発揮し続けることが可能となる。しかし一度発動すると問題が解決されるまでスキルが解除されることはなく、自身の能力では解決できない問題に対してこのスキルを発動した場合、死ぬまで働き続けることとなる。

 前所有者はアメリカの研究者であり、原初のスキルについての研究に『勤勉』を発動し、解明する前に死亡。現所有者は判明していない


「これに『憤怒』と今回の『暴食』で4つだ。まあ原初のスキルを持っていると目されているダンジョンボスや人物はいるが、それについては公表されていない」

「中々凄いですね」

「そして今回、君にお願いしたいことは、『暴食』の『スキルオーブ』を使わないでほしいということだ」

「使わない?」

「『勤勉』の前所有者の研究によって原初のスキルについて僅かだか判明したことがある。原初のスキルの所有者は必ず1人であること。原初のスキルを持っているモンスターを倒した場合、『スキルオーブ』として所有者を移すことができる。そして所有者が人の場合、倒したとしても所有権は移動しない」

「よくそれだけの事が判明しましたね」

「おそらく『勤勉』の副次的な効果だろうと言われているが、その時代の最高峰の鑑定士がスキルを鑑定しても詳細までは判明しなかった」

「そうですか」

「そして前所有者の研究ノートの最後には原初のスキルの所有者が増えるほど、世界の変革は進行していくと書かれていた。変革が何か分からないが、最近のダンジョン内の異常は原初のスキルの所有者が増えたからではないかと思われている。これが変革ならば、世界はその変革に対応しきれない」

「そうかもしれませんね」

「だから所有者が減った今、君に頼みたい。『スキルオーブ』を使用するのは待ってくれ」

「あの」

「君の言いたいことも理解してるつもりだ。しかし――」

「そうではなくて」

「なんだ?」

「今、自分は『スキルオーブ』を所有していません」

「まさかもう?」

「いえ、来栖さんに預けていたのですが…」

「来栖くんに! それは」

「先ほどメッセージが来まして。見ますか?」

「み、見せてくれ」


 煉は東藤会長に来栖からのメッセージを見せる。そこには


【『暴食』を竜王素材で作った刀剣に付与することに成功したー! これならデメリットもあんまり気にせず使えると思うよー。早いうちにとりきてー】


 と書かれており東藤会長の方を見れば頭を抱えていた。

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