第15話 竜王

 氾濫が発生している階層に突入した煉を出迎えたのは数えきれない数の竜兵士である。彼らは煉を視認した瞬間、煉への突撃を開始した。

 竜兵士は武器を持ち人間に似た攻撃を繰り出す。しかも軍隊レベルの規模で。モンスターとの戦闘に慣れている探索者も人型の相手は苦戦する場合が多い。しかし大群対策のスキルはソロの煉にとって必須級である。


「『王の威圧ドミネーション』」


 煉が発動した『王の威圧』が兵士たちに『硬直』を付与する。『王の威圧』は確率で状態異常『硬直』を付与する効果であり、相手との実力差によってその確率は増減する。今回は上振れたのか兵士の六割強が硬直していた。


「大人数の脆いところは周りが動けなくなれば、正常な者も動けないところだ」


 煉は兵士たちを死骸に変えていく。動けない兵士の顔が恐怖で歪んでいるが、竜人種の表情は煉には分かりにくいため心が痛むこともない。


 しかし竜人の表情は竜人には理解できる。兵士たちを無惨にやられて騎士たちが黙っている訳がない。ここでドラゴンに乗った竜人である竜騎士が空から応戦してきた。

 だが空を飛ぶ相手の何が厄介かと言えば此方の攻撃は届かないのに相手の攻撃は届く点である。しかし現在、煉の周りは竜兵士だらけ。この状況でドラゴンブレスやらの遠距離攻撃をやれば倒れるのは竜兵士たちの方だ。なのでこの状況で竜騎士が飛び出してくれたのは幸運なのだ。


「しかも周りには投擲武器を持った兵士がたくさん。ラッキーだな」


 竜騎士はそれなりにいる。スキルや魔法で倒そうとするとガス欠になる危険がある。そんな場合に最適なのが投擲。周りには無抵抗に武器を渡してくれる相手。本当に幸運である。


「グギャグギャ!」

「何を喚いてるか知らんが、堕ちろ!」


 兵士を倒し武器を奪い投擲を繰り返す。ドラゴンも懸命に避けているが避けきれなかったドラゴンが飛ぶ力を失い堕ち始める。戦闘は順調そうに見えた。しかし


「GRAAAAAAAAAAR!!」

「はっ! あっぶない。何とか間に合った」


 竜王がお怒りになった。家来の不甲斐なさに業を煮やしたのか家来を巻き込んでブレスを放ってきた。『魔力感知』のおかげギリギリのところで回避に成功する。


「ようやく登場か。雑魚狩りの手間が減る!」

「GRAAAAAAAAAAR!!」

「予備動作が大きすぎるだろ」


 竜王のブレスにより竜王への道ができる。予定とは大分違うが良い誤算である。竜王を煉が倒せるのであれば。

 煉は『亜空』から来栖から受け取った新武器『奈落』を取り出し竜王に向かって駆ける。


 竜王は座して動かず、ブレスを放ってくるだけだが、その威力は兵士や騎士たちの残骸を見れば一目瞭然である。回避を誤れば煉自身がこうなってもおかしくない。しかし煉は臆すること無く接近していく。


 そして、気が付けば煉の間合い、即ち次元流剣術が届く位置まで接近した煉。問題は次元流剣術を放つ隙を竜王が与えてくれないことだ。

 かといって煉が持つ遠距離系スキルや魔法ては大したダメージを与えられない。攻撃を当てられない竜王と攻撃を放てない煉。戦闘が膠着状態となる


「これが長引けば不利なのは俺か。ならやるしか無いか」


 この硬直状態を破る覚悟を決めたのは煉であった。煉はポーションを取り出し自身にぶっかける。それと同時に竜王に向け一直線に駆け出した。


「GRAAAAAAAAAAR!!」


 竜王がブレスの予備動作をしようと、実際にブレスを放とうと接近を止めなかった。そのためブレスが煉に直撃する。その瞬間竜王は勝利を確信する。


「GRAAAAAR!!」


 竜王のブレスで灰塵が舞い辺りが真っ白の中、竜王は勝利の咆哮を上げる。その咆哮は階層中を揺らすほど壮大であった。そのため目の前のか細い声は竜王の耳には入らなかった。


「次元流剣術4節『空絶くうぜつ』」


 全てを粉砕する自身のブレスをその身に浴びて生きてられるものなどいない。その驕りが全てである。

 竜王は自身が起こした灰塵と咆哮により、攻撃を認識することも出来ず絶命するのだった。


「あ、あー。持続性ポーションのおかげで助かった、な。『空絶』でギリギリか。こんなのが特級ダンジョンの最下層付近にはゴロゴロと…楽しみだ」


 

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