第7話 イレギュラー

「い、イレギュラーだ!!」


 イレギュラーとはその階層に出現しないようなモンスターが出現することを示す。そして中層と上層の境目などではそのイレギュラーが起きやすいと言われている。

 本当にイレギュラーが発生しているのであれば上位者探索者のマナーとして速やかに解決するべきである。


「イレギュラーとのことです。向かいます!」


 煉は一言呟き、声のした方向に走り出した。


 叫び声の主はすぐに見つかった。イレギュラーに教われているのは男子3人女子3人のパーティ。珍しいことに自分と同い年か1つ年上くらいの高校生パーティであった。

 そして相対してるモンスターはケルベロス。地獄の番犬の呼び声高い上級モンスターであり、特級ダンジョンでも中層で良く見かけるモンスターである。正真正銘のイレギュラー。しかし煉からすればそこまで警戒する相手ではない。


「そこの!」

「…え、煉!」

「は? なんで名前、いや今はいいか。助けは必要か?」

「な、なん」


 パーティのリーダーらしき人物に助けが欲しい確認するが、何故か答えない。それどころかこっちを睨んでくる始末であった。

 確認を取らずイレギュラーを倒しても良いが、彼らに討伐の意思があれば横取りになってしまう。そのための確認なのだが理解していないのか、理解してて睨んでいるのか分からない。


「獲物を横取りする意図はない。叫び声を聞いて助けが欲しいと思ってきただけだ。必要なければ立ち去る」

「そんなもの、」


 リーダーの男が答えようとしたところ、他のパーティメンバーが男を押さえ付けた。そして


「助けてくれ!」

「お願いします!」


 助けを求めてきた。ようやくイレギュラーへの対処が可能になった。


 始まってしまえば簡単である。煉からすれば3つの頭を持つケルベロスは、弱点が3倍になった犬に過ぎない。いつも通り剣で瞬殺である。


「ふう。大丈夫ですか?」

「…………」

「す、すげー本物だ」

「感激。動画よりも生の方が何倍も凄い」

「取り敢えず怪我は無さそうですね。それでは…」

「まてよ!」


 何故だか先ほどからずっと怒りの視線を向けてくるリーダーの男。そんな彼に居心地の悪さを感じたのでとっとと退散したかったのだが、呼び止められてしまう。煉は渋々ながら呼び掛けに応じる。

 するとパーティの内の1人がリーダーの男の頭を叩く。


「陸、あんたいい加減にしなさいよ!」

「いって、何すんだよ茜!」

「何すんだはこっちの台詞よ! あんた煉さんに何言うつもりだったの? あんたが勝手に煉さんに敵意向けるのは勝手だけど、助けて貰った相手にお礼も言えないなら止めた方がいいわ!」

「な、んだと」


 いきなり始まった痴話喧嘩、その原因が自分。気まずさの極致にいる煉は黙って成り行きを見守る他なかった。少しして


「す、すみませんでした」

「お礼!」

「あ、ありがとうございました」

「気にしないで下さい。はい」


 決着がつき謝罪とお礼を受け取った煉は色々と疑問は残ったままだが立ち去ることにした。


「取り敢えず自分はこれで。ケルベロスについては貴方たちで分けてください」

「え、まって」

「それでは!」


 ケルベロスの剥ぎ取りを押し付ける形となったが、これは許容範囲だろう。それよりも何よりあの気まずさから逃れることを優先した煉であった。


 そんな煉の背中を目に焼き付けていたのが鏑木陸率いるパーティであった。


「生煉くん、凄かったね」

「一瞬でケルベロスが三等分に」

「それにしても陸…向こうに全く認知されて無かったね」

「ねー」

「ほんとよ。そんなんで怒って睨んで。そのせいで煉様が帰っちゃったのよ! ケルベロスまで譲っていただいて」

「煉が帰ったのはお前が…」

「なに?」

「なんでもない。すみませんでした。それにしてもあれが煉か。カッコよかったな」


 高校生でも1、2を争う実力者と言われていた鏑木陸。彼は今日、真の探索者を目の当たりにしたのだった。

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