第8話 来栖

  最後にちょっとしたトラブルはあったが、無事に特級ダンジョンから帰還した煉は、渋谷に拠点を構えるある人の元に訪れていた。


「お久しぶりです来栖くるすさん」

「むむ、これはこれは、探索者筆頭ぼっちことレンレンじゃーないかい! おひさーだよ」


 彼女の名前は来栖サキ。自称発明家であり、武器や防具、アイテム類なんでも製作できる凄腕であり、煉の装備も全て彼女が製作したモノであった。


「そんな残念なモノの筆頭になった覚えはありませんが、っと。特級ダンジョンの素材持ってきましたよ」

「おお、そりゃーありがとよ! いつもすまんねー」

「はい。感謝してください」

「ぬぬ。レンレンの癖に言うようになったな。やっぱ今日の生配信でさらに有名になったせいか?」

「生配信ですか?」


 といつも通り適当に受け流しながら会話をしていると、聞き慣れない単語が来栖の口から発せられる。


「そそ、今日レンレンが助けた子たちの…もしかして知らない?」

「はい」

「流石だーね。まあその子たちもレンレンみたく配信してるんだけど、レンレンが助ける様子が生で配信されちゃったってこと」

「そうなんですね」

「興味なさそー。そんなんでよく配信者なんてやれてるね?」


 実際興味のない煉の反応は薄い。横取りの意図はなかったし、トラブルのもとである倒したモンスターは残してきた。しっかりと確認をとった上で倒したのだ。非難される謂れはない。


「なーんかレンレンが明後日なこと考えてそーだけどいいや。本題にはいろか」

「お願いします」

「取り敢えず耐久性を極限まで高めてレンレンが使っても壊れないようにしとくね」


 ようやくここに来た目的が果たせる。探索者として活動するにつれてどんどん使える武器が無くなっていった煉。彼が満足に振れる剣や彼が本気で動いても壊れない防具を開発してくれるのが来栖さんなのである。


「それにしてもレンレン、また強くなったね」

「そうですか?」

「そうでーす。君の武器が泣いてるよ。えーんって」

「……」

「真面目な話、特級ダンジョンをソロで攻略してる探索者は君くらいだ。私に惜しげもなく素材を与えてくれるのも、ね?」

「俺が探索する上で必要なので」


 煉の本心であった。それが来栖にも伝わったのか彼女の頬を赤く染める。


「うれしいぬぁー。嬉しいこと言ってくれる。ただ1つ忠告しておくよ。それらの武器は君の現時点での最高値に耐えられるように設計してあるつもりだが、君は今成長期。君の最高値は更新され続けてる」

「つまり、壊れる危険性は常にあると?」

「そだね。だから予備の装備を『亜空』に入れておくことと、定期的にここに来ることを忘れるでないぞ」

「ありがとうございます」

「お土産にモンスターの素材も忘れずにな」

「はい」


 来栖が照れ隠しでお茶らけたことには、鈍い煉もしっかりと気づいているのだった。

 

 


  

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