第5話

 私は気を失っていたが、先輩方が話す声は聞こえていた。

「前回の復活は400年前…」

「当時の記録によると、ニセモノがいっぱい出現したらしい…」

「新しい酒と料理をもらってきたよ…」

「復活なんて単なる伝説…」

「信じる奴もいるってことさ…」

 ぐるぐると頭の中を回るのは、先輩方の声だけではなかった。

(しょせんは130年前のことだろ)

(本当に昔のことは、この本には書かれていない)

(今どきはこんな料理があるんだね)

 ゆっくりと思考が回復してきていた。

 しわがれた声の、プラチナブロンドの魔女。首にかかった緑色のペンダント。

 あの人は…。

「デザートにゼリーがあるようだ」

「長老は信じてるらしいね」

「あんたも聞いたのかい」

「復活した偉大な魔女を、誰かに探させるって計画だろ」

 何だって?!

「そんな計画があるのかい」

「本当は自分で行きたいらしいが、年だからね」

「誰が金を出すんだよ」

「長老だろ」

「せ、先輩方…、今のお話は本当ですか」

 私はガバリと起き上がった。

「おお、起きたか」

「偉大な魔女を探しに行く人は、もう決まっているんですか?」

「さあ…」

「そこまでは聞いてないよ」

「私、立候補します」

「は?」

「立候補って…」

「マリーレ。あんた、猫はどうする気だい?連れて行くのかい」

「ロニーに希望を聞いてから決めます。一緒に行くか、留守番か…」

 気が急いていた。

 あの魔女を早く追わねば。プラチナブロンドの後ろ姿が、どんどん遠ざかっていくのが見える気がした。

「ちょ、長老様は…。長老様にお話しを…」

「ちょっとちょっと。今はやめておきな。長老だって酔っぱらってるよ」

「そんな…、すぐにでも出発したいのに…」

「おいおい…」

 先輩方も驚いているらしかった。

「あんたが行きたいなら…」

「反対はしないけどさ」

「でも、もっとよく考えてから…」

「いいえ。もう決めました」

 もしも長老がうんと言わなかったら、自力で偉大な魔女を探す旅に出ればいい。

 ボーンと、大広間の柱時計の鐘が鳴った。

 午前0時。日付が変わったのだ。

 今日から私は、偉大な魔女の探求者だ。

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