第3話 3

 私はロニーに心から感謝した。

 私のほうはと言うと、すっかり混乱して、肝心のオーブンに注意をはらうのを怠っていた。

 オーブンに入れたパイは、グツグツと音をたて始めている。

「そろそろ雷を起こさなくていいのかい?」

 プラチナブロンドの魔女は、本に書かれたレシピを読みながら、意地悪そうな目を私に向けた。

「そ、そうですね、そろそろ…」

 雷を起こしてくださいと頼みたいが、これでは頼みにくい。でも、さっき、助けてくれるって言ったよね…?

「あんたが起こすんだよ!嵐はすでにあんたが呼んでるんだから、当然じゃないか」

 プラチナブロンドの魔女がぴしゃりと言った。

 この人は、人の心が読めるのだろうか。

「わ、私…、本番はどうしても緊張してしまって…」

「まず、背筋を真っ直ぐに伸ばしな」

 きらりと魔女の目が光った。

「息を深く吸って、大きく吐いて。そうしてから、欲しいものを頭の中でイメージするんだ」

 私は肩を軽く上下に動かしてから、姿勢を正した。確かに猫背になっていたようだ。

 そして、息を深く吸ってから、大きく吐いて…。

「そおら!でっかい稲光(いなびかり)が空から落ちるのを想像してごらん!!」

 魔女の声が雷鳴のように響いた。

 その声につられて、思わず私は、大きな稲妻が空から真っ直ぐ落ちてくるのを想像してしまった。

 すると…。

 ガラガラ ドドーン!!

 もの凄い音と共に、家が揺れた。

 私とロニーは耳を塞いでその場にしゃがみこんだ。

「うわあああっ」

「落ちたぁっ!近いいい!」

 壁にかけてあったフライパンや鍋が、ぶつかり合って大きな音を立て、テーブルの上のコップが下に落ちて割れた。

「は~はっはっはっは!その調子なら大丈夫だね。あとは上手くやりな!」

 顔を上げた時、プラチナブロンドの魔女はもういなくなっていた。

 ドアが開きっぱなしになっていて、風にあおられてバタンバタンと音を立てている。

 その後、嵐は申し分ない激しさで吹き荒れ、ちょうどいい頃合いで収まってくれた。

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