第3話 2

「よ、良かったね。マリーレ…」

「パイを…、パイを作らなきゃ…」

 私達はチキンクリームパイ作りに没頭した。

 手伝ってくれる人が出現して、私は精神的に落ち着いたのだと思う。

 雨と風は普通の嵐くらいの勢いに安定して、さっきのように急に激しくなったり穏やかになったりすることはもうなかった。

 雷は鳴りをひそめていたが、気にしなかった。きっとプラチナブロンドの魔女が起こしてくれる。

 一時間も経った頃、バスルームから魔女が出てきた。

「ふう。さっぱりしたよ」

 着ている服も綺麗になっている。洗濯機で洗濯したらしい。乾燥は、先程と同じく魔法だろう。

 今、気付いたが、この魔女は美しい緑色の石のペンダントを首にかけていた。プラチナブロンドの髪によく映えている。

「オーブンにパイを入れな」

 魔女は勝手に台所の一番大きな椅子に座って、私達に指示を出した。機嫌が良さそうだ。

 私達は言う通りにした。

 パイをオーブンに入れたら、次は激しい嵐を起こさなければいけない。

 しかし、プラチナブロンドの魔女は、無言で伝統が書かれている本をパラパラとめくり始めた。

「発行は今から130年前か。著者はツリーピアム・カトナ、ジョナ・エニキン、リザ・ルバワ、その他数名の共著。どれも知らない名前だね」

「いずれも有名な方です」

 口を挟んでいいか分からなかったが、私は思い切って言った。

「私達はその本を参考にして、魔女の間に伝わっている伝統的な習慣を、今も行っています」

「伝統的な習慣と言っても、しょせんは130年前のことだろ。本当に昔のことは、この本には書かれていない」

「…」

 これを聞いて、ちょっと不思議な気持ちになった。この人は何歳なんだろう。

 魔女は長命だ。現在の私達の長老は123歳で、歴代の魔女の最年長記録は139歳だという。

「ぼんやりするんじゃないよ。オーブンの火加減は大丈夫かい?それに、あんたは嵐の魔法を使ってる最中なんだろ」

「は、はいっ!」

 横からロニーが言った。

「オーブンのほうは大丈夫です」

 これを聞いた魔女は、にっこり笑った。

「利口な猫だね。あんたはこの猫を大事にしないといけないよ」

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