第3話
入口のドアが、バンと音を立てて開いた。
「全く、なんて嵐だいっ!」
しわがれた声に振り向くと、雨に濡れた姿でドアの前に立っていたのは、私が会ったことのない魔女だった。
声を聞いた時は高齢の魔女かと思ったけど、そうではない。
年齢は30代後半から50代くらい。
髪は肩までの真っ直ぐなプラチナブロンドで、背が高く、全体的にすっきりとした印象の人だ。
「何度もおさまったり、ひどくなったり!一体何だってこんなことになってるんだい?!」
「す、すみません…。今日の誕生祭に、伝統のチキンクリームパイを焼かなきゃいけなくて…」
私は半泣きで答えた。
ロニーは怖そうな魔女の出現に青くなっている。
「伝統のチキンクリームパイ?」
「オーブンで焼く時に激しい嵐が必要なやつですよううう~~。うっ、うっ…」
「何だい、それは?」
魔女であるなら、この人も誕生祭の伝統料理を知っていておかしくないが、知らないようだ。
その魔女は、礼儀正しくも、髪や服からしたたり落ちている雨粒を魔法で吹き飛ばしてから、つかつかと家の中に入ってきた。
そして、台所の調理台に、チキンクリームパイの作り方のページを開いた状態で置いてあった、魔女の伝統に関する本を取り上げた。
「ふうん。今どきはこんな料理があるんだね。誰が考えたのかは知らないが」
魔女は、こんな謎めいたことを言う。
「まあ、いいさ。食いたい奴がいるんだろうから、あんたは頑張ってこのパイを作ってやればいい。で、嵐を操るのが上手くいってないってことかい?」
「は、はい…」
「情けない!今どきの魔女は嵐も操れないのかい」
「わ、私は本番に弱いんです…」
私はできたらこの魔女に助けて欲しかった。誕生祭の料理を失敗したくない。
私の心を見透かしたように、魔女はうっすらと微笑んだ。
「まあ、いいさ。助けてやらないこともないよ。その代わり、この家の風呂を貸しておくれ」
「ど、どうぞ…いくらでも入ってください」
「洗濯機も借りるよ」
「はい…」
「タオルを出しとくれ」
そして、魔女はバスルームに行ってしまった。自分が出てくるまでに、パイを焼くだけの状態にしておくよう言って。
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