第2話

 そして、誕生祭当日になった。

 案の定、昨夜はよく眠れなかった。緊張のせいだ。

 空はきれいに晴れている。この晴天を見た私は、どうしようもないくらい不安になった。

 チキンクリームパイ作りは、朝食が終わってから始めることにしていた。

 パイ作りにかかる時間を計算すると、オーブンで焼くのは午後になるだろう。パーティーは夕方からなので、これで十分間に合う。

 しかし、こういうふうにちゃんと計画を立てていたにも関わらず、私は嵐を呼ぶ魔法を発動してしまった。

「あれ、こんなに早く嵐を呼んじゃったの?」

 ロニーが驚いて、家の中から飛んできた。

「こんなに良い天気じゃ、嵐を呼ぶのに手間取るかもしれないから」

 空を睨みながら呟く。

 真っ青だった空に、雨雲がたちこめてきた。もうすぐ雨が降るはずだ。

「大丈夫。きっと上手くいくよ」

 全てを察したロニーが、励ますように言った。


 朝食後、私は暗い台所でパイ皮を作り始めた。

 本当はイライラするのは良くない。魔法に影響する。

 ロニーは二本足で立って、材料の玉ねぎとセロリを刻んでくれていた。

 さっきポツポツと降り出した雨は、すぐに暴風雨になった。木の枝は強い風にあおられ、大粒の雨が地面にたたきつけられている。

 重苦しい雰囲気の中、遠くからゴロゴロゴロ…という、雷の音が聞こえてきた。

「あ…」

「雷だ」

 待望の雷が出現した。

 しかし、私は絶望的な気分だった。

 パイは作り始めたばかりだ。嵐が来るのが明らかに早過ぎる。

 全部自分の責任なのだが…。

「この嵐をパイが焼き上がるまで維持できる?」

 ロニーが聞いてきた。

 今は午前8時半だ。パイが焼き上がるのは午後2時か3時だろう。

 普段であれば、私は何の苦もなく、その時間まで嵐を維持できるが…。

「分かんない…」

 私は泣きそうな声で答えた。

 ゴロゴロゴロ…

 さっきよりも雷が強くなった。

「マリーレ、嵐の勢いを抑えるんだ。パイが焼き上がるまで嵐がもつように」

 分かってる。分かってはいるんだけど…。

 不意に、自分でもよく分からないが、外の暴風雨が穏やかになった。

「あ…」

「嵐の勢いが落ちた…」

「良かった…」

 しかし、このわずか5分後、いきなりピカッと稲妻が光った。

 数秒後、バリバリ…という雷の音が鳴る。

「す、すごい雷…」

「雨と風もまた強くなってる…」

 もう何も考えられなかった。

「パイ作りは任せて。マリーレは魔法に集中するんだ!」

 健気にも、ロニーは私を懸命に励ましてくれている。

 私は意識を魔法に集中させた。

 すると、また風と雨が穏やかになった。ちょっと明るい気分になる。

 だが…。

 ピシャーン!ガラガラ…

 油断したせいだろうか。再び稲妻が竜のように宙を走り、風と雨が荒れ狂う。

「嵐のエネルギーが無駄に消費されてる…。もう失敗確定だよううう…」

「き、希望を捨てちゃダメ!」

 パニック状態の私を、ロニーが必死で勇気づけていた、その時…。


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