第5話 改造人間Y

無機質な部屋の中とは裏腹に、外は砂漠だらけだった。

砂嵐が吹き荒れる。

ここまで地球を壊した人間を、もはや尊敬する。

そんな惨状だった。

隣の部屋をチラリと見る。

砂が入らないよう、自分の部屋の扉を閉めた後、隣の部屋の扉を叩いた。

外から見ると、白く四角い建物だった。

隣の部屋の住人、もとい改造人間Yも、きっと人間を恨んでいるに違いない。

そう思いつつ扉を開けると……


「あぁ、君がXかな?」


そう言って、柔らかく微笑む少年がいた。


「……そうだ。あなたはY?」


肯定を返した後、私も一応尋ね返す。

すると、少年は首を横に振った。


「俺には名前があるから、そっちで呼んで欲しい。

俺の名前は……」


「名前だと?」


私は少年の言葉を遮った。

そんなものを呼べというのか。信じられない。


「お前は人間が憎くないのか?」


「憎くなんてないさ。」


あっけんからんとした口調に、思わず戸惑いを覚える。

なぜだ?

私には到底理解しがたい事実に、眉を寄せる。


「もしかしてだけど……君は『二人目』なのか?」


少年に問われ、私は彼を思い切り睨みつけた。


「だったら何だ?」


敵意むき出しの私に対し、彼は飄々として言った。


「俺は二人目じゃないんだ。

俺は、両親に売られたんだよ。

両親には金も戸籍も無かったから、この監獄から逃げられなかった。

だから俺を研究院に売って、その金で戸籍も買って、自分たちだけ逃げたのさ。

それでもまだ、俺には人としての情が残ってる。

両親は憎いが、名前に罪はない。

この世には善い人間だっている。

だから俺は、両親を憎むことはあっても、人間を憎むことはないね。」


コイツとは相容れないな。

何となくそう思った。

私は全ての人間に殺意さえ覚える。

コイツとは違う。


「……私はそうは思わない。」


端的にそう告げると、少年に背を向ける。

もう、何も言うことはない。

相容れない奴とは何を話しても方向性が食い違ってしまう。

研究員の指図通りに動くのは気に食わないが、一応私と少年はチームだ。

ならば仲良くしておいた方がいい。

……人間を滅ぼすのは、一人でいい。

一人で責任と批判を背負い、一人で終わらせる。

汚名を被るのは、私だけで良いのだ。

だが、相手が人間ではなく同じ改造人間というと話は違ってくる。

私も流石にチームを組んだ3体の改造人間相手に一人で戦うのは困難を極めるだろう。Y(少年)と協力する必要がある。


「……君はまだ、外の世界を知らないだけだ。」


僅かな沈黙の後、少年に返される。

何故そんなに落ち着いていられるのだろう。

憎くないのか?親に捨てられたのに。

悔しくないのか?屈辱じゃないのか?

……私には到底理解し難い。


「そんなに言うなら見せてみろ。

 私に、お前の言う『外の世界』とやらを。」


私の背中に突き刺さる視線に、少し譲歩してみせた。

言葉だけでなく、結果を示せ。

いかにも人間らしい考え……いや、ロボットと言った方が適するか。

そんな事を考え、自嘲の笑みを浮かべる。

少年が、そんな自分をじっと見つめて、静かに頷いたのが分かった。


……いずれ、こいつも気づくはずだ。

人間が、どんなに残酷な生き物か。

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