第4話 大規模実験

思い切り吐きたい気持ちに襲われた。

ふざけるな。

私が、改造人間だと?

人間でさえ嫌なのに、改造人間?

耐え難い屈辱に唇を噛みしめる。


「君の多くの性能を高めておいた。

そうだな、例えば……君が本気で走ったら、光よりも速く走れるだろう。

君が本気で飛び跳ねたら、月まで行けるだろう。

君が本気で殴ったら、どんなに硬い鋼鉄も凹むだろう。

それから、君の内蔵などもいじったから、食も必要としない。

だが、たまに水は飲まないといけないよ。

動けなくなってしまうからね。」


そんなに強いなら、私を生んだ憎き人間どもを皆殺しにできるかもしれない。

もう二度と生命が生まれないよう、惑星ごと壊せるかも……。


「君は風に乗ることもできる。軽いから。

雨に当たっても錆びることはない。特殊な素材を使っているから。

酸素も究極必要ない。

光合成できるようにしたから、エネルギー補給とかも必要ないんだ。」


そんなの、植物じゃないか。

人間の形をした、植物……。

いいや、違うな。

私はただの植物じゃない。

人間に、牙を剥く植物だ。


「君には仲間もいる。2号だ。君の隣の部屋にいる。

この研究室では、君のことを改造人間X、2号をYと呼んでいる。

名前が欲しいなら自分たちでつけなさい。」


そんなのいるものか。

私は人間じゃない。人間じゃ、ないんだ。

名など必要ない。


「敵もいるから、気をつけなさい。

君たちの他に、改造人間AからZ(XとYを除く)までの計24体がいる。

それらは3体ずつに分かれてチームを組み、戦ってもらう。

最後に生き残ったチームが合格だ。

どの製法で作る改造人間が1番良いかを調べるために、この大規模実験を行う。」


私たちを、なんだと思っているんだ。

命を、そして人生を懸けて戦わせて……それを『実験』だなんて。

コイツら、狂っている。

私よりも、もっと、ずっと。


「君たちがいるのは、元々日本だった場所だ。

今は砂漠化が進んで、大陸と陸続きになってしまい、見る影もないが……。

君たちは日本という大きな鳥かごの中にいる。

文字通り、鉄格子で囲まれており、脱出は不可能だ。

私達は全員日本から避難させてもらった。戦闘に巻き込まれるのはごめんだからな。

日本にいるのは、君たち改造人間と、戸籍のない人、そして『二人目』だけだ。

人口のほとんどがまだそちらにいることになるな。」


罪のない人を殺せ、と言うのか。

まあ私には関係ない。

全て殺して、壊していけば良いだけだ。

「二人目」には少し情がわかなくもないが、私のように好き勝手に改造される前に、殺してやったほうがむしろ良いだろう。


「もし罪のない人を殺したくないのならば、改造人間と普通の人間を見分け、倒すことだ。

改造人間は心臓を破壊することで死ぬ。

急所は普通の人間と変わらない。

……説明は以上だ。サイドテーブルにあるスマホを持っていきなさい。

何か質問があったら、そのスマホで聞いて。地図もそこに入っている。」


それじゃ、健闘を祈る。

そう言って、研究員Mの映像はフォンッと音を立てて消えた。

長い説明だった。

思わず、ふぅっとため息をつく。

そうだ、私の目的を忘れてはならない。

【この世界に終止符を。】

だがその前に……。私はスマホを起動させ、質問アプリを開く。


『私を作ったのは、誰?』


そう打ち込み、送信した。

静かにスマホを閉じ、目を伏せる。

数秒、そうして……決意とともに、目を開き、部屋の扉を開けた。


「必ず、この世界を滅ぼす。」


私は部屋から足を踏み出した。

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