第2話 研究員Mの話

「おはよう。起きたんだね。」


フォン、という音とともに映像が目の前に映し出された。

サングラスを掛けていて、顔はよくわからないが、白衣を着ている。

胸ポケットにあるネームプレートには、Mと記されていた。

誰だかはわからない。知らない。


「君は今、記憶がない状態だと思う。だから、現状を説明してあげよう。」


長くなるけれど、ちゃんと聞きなさい。

そう言って、Mは話し始めた。


「この世界には、かつて人間、植物、動物がいた。

だが人間は便利な物を作りすぎたあまり環境に害をなし、植物と動物が絶滅の危機に瀕した。

そうして失いそうになって、人間は初めてそれらの偉大さ、大切さに気づいた。

しかし、気づくのが遅すぎた。

砂漠化や地球温暖化、人口爆発が進み、人間は地球で住めなくなりそうだった。

人間は地球で住み続けられるように、宇宙での暮らしも視野に入れつつ、研究を進めた。」


ニン、ゲン。

なぜだろう、ひどく憎く聞こえる。

知らない生き物のはずなのに。


「研究は様々だ。

熱くても快適に過ごせる衣類、砂漠の上でも家を建てられる技術と素材。

そして、抑えきれない人口に対応するため、所構わず高層ビルが立ち並んだ。

それでも人口が溢れかえってしまう国は、際限年齢も決めていた。

例えば際限年齢が60歳の国は、60歳になった人は安楽死する決まりになったという事だ。

よって戸籍登録しない人が増え、失業者で溢れかえり、餓死者が数多く出た。」


愚かだな。

冷たくそう思う。

同情の一切も湧いてこない。


「人生を謳歌できるのは富裕層だけ、他は餓死か熱中症で死ぬ。

完全なる貧富の差が浮き彫りになった。治安も悪化した。」


だからなんだ。

私には関係のないこと。


「そこで我々は、人間の身の回りを変えるのではなく、人間自体を改造することにした。

温度に生死を左右されず、食料も少なく済む。

数年前、全ての国で、かつて中国が行った残酷な政策をモチーフにした、第二次一人っ子政策がはじまった。

第二次一人っ子政策とは、一家庭に子供は一人までという政策だ。

もし二人目を産んでしまったら、二人目は殺される。」


だから、なんだというんだ。

私は、私には、関係が―――――――


「君は、もともと人間だった。」


は、と思わず声が漏れた。ひどくかすれている。

けほけほ、と咳き込む。


「君は、『二人目』だったんだよ。」

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