後編(2)

 目が覚めると、そこにはいつもの天井があった。どうやって私の部屋に戻ってきたのか記憶にない。そもそも、記憶が手錠を外そうとしたタイミングで途切れている。あの後何があったのかわからない。いやな予感がして時間を確認すると、いつもの目覚める時刻。そして日付だった。…訳が分からない。実は夜葉は説得されたふりをして、とっさに私を殺したのかしら。



 その後何度も夜葉の説得に向かった。けれど時間が戻ってしまう。何度説得に成功してもまた戻ってしまう。説得した後私は死んでいない。何度も注意している。間違いない。どうして戻るの?もしかして何か別の理由で死んでいるのかしら。それとも…戻る条件は私の死ではない?思い返すと、夜葉に殺されて初めて時間が戻った時に、早とちりして決めつけてしまっていた。実際時間が戻っていたから深く考えてなかったけれど、私の死は条件の一つに過ぎないのかもしれない。



 当てもなく街を歩く。どうしようかしら。今の方法で時間が戻ってしまうなら、巻き戻る条件を確かめた上で、戻らないよう夜葉を止めないといけない。けれど、私が死ぬことと夜葉の犯行を止めることに共通点なんてあるかしら?私の身に何か起こったわけじゃないのに…。説得に時間をかけすぎてることが問題なのかしら。昼過ぎになるまで、夜葉が諦めることはなかったから、もっと早く諦めさせられれば……。


 なんて思考を巡らせていた時、目の前の男の子が道路に飛び出そうとしているのを見かけた。しかも、車が来ている!私はとっさに飛び出そうとしている男の子を引き留める。間一髪のところで事故は回避できた。


「だ、大丈夫でしたか?けがは?」


 車の運転手が車から降りてやってくる。母親と思わしき女性も駆け寄ってくる。男の子は茫然としているけど、大事なさそうね。けがはなさそうです。そう言おうとしたけれど、その言葉は発されることはなかった。


 目が覚めると、そこには見飽きた天井があった。どうやら、時間が巻き戻ったみたい。日付も時刻も、見飽きた数字を示している。私があの後死んだとは考えにくいし、また別の条件に引っかかったみたい。それと、夜葉を止めた時間は関係なさそうね。私の死、夜葉を止めること、子供を助けること。共通点は何かしら。しばらく考えても、答えは出ない。



 ここは冷静になって、考える視点を変えるべきかしら。つまり戻ったきっかけを考えるんじゃなくて、その結果どうなったのかを考えるべき…?そう考えているうちに1つ可能性に思い当たる。それは私にとって都合の悪い推測。だけど、確かめない訳にはいかない。包丁を隠し持ち家を出る。そこにタイミング良く、お隣のおばあさんが歩いてきた。


「おはようございます。そんな恰好でどうされたの?」


 寝巻姿の私を見て疑問の声がかけられる。私は返事もせず、半ば自暴自棄になった状態で、手にした包丁をおばあさんに突き刺す。何度も何度も。これまでの鬱憤を晴らすように。そして数秒後、私の推測通り、目の前にはあの天井があった。



 これはもう確定、ね…。時間が戻る条件は、本来の運命と大きく異なる結末を辿ることでしょう。私がはじめにタイムリープした2週間後の世界を基準に、その世界に到達しなくなるような、大きく運命の変わる出来事が起こるとこの時間に戻る、といった感じね。



 そりゃあ私が死ぬことはもちろん、子供の事故を防いだり、死ぬはずのないお隣さんが死んだりしたら時間は巻き戻るわね。そして当然、夜葉の犯行を防いでも。

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