後編(1)

 …全然上手くいかない。何度も何度も夜葉に殺されながら、私は今日を繰り返す。どうやっても、夜葉を説得できない。夜葉の襲撃をかわし、何とか話をしようとしても、全く聞く耳を持ってくれない。そして最後には負けてしまう。事件を起こす理由もきっかけも聞き出せない自分の無力さに嫌気がさしてくる。そんな心持ちで対峙するから、最後には負けてしまうんでしょう。…そうだ、どこかで甘えがあったのかもしれない。夜葉の攻撃をかわして話をして説得する、なんて穏便なやり方ではダメ。やるなら徹底的にしないと。手始めに、手近な店でスタンガンと…手錠なんかが売っていないか探そう。



「何のつもり…?」


 目の前には玄関先で後ろ手に手錠をされた夜葉が転がっている。


「ごめん。でも、この後夜葉がしようとしてることを知ってるから。まずは話を聞かせて。ね?私に手伝えることがあるならするから。バカなことはしないで」


 話を聞こうとしても、夜葉はまだ抵抗してくる。けれど、手錠をかけられているおかげで力は弱く、十分抑えられる。数十分も続けると疲れたようで、動きがなくなってきた。


「とりあえず部屋まで運ぶから、落ち着いて話をしましょ」


 そう言って私は夜葉を抱える。夜葉も抵抗してこない。


「どうして、あんなことしようとしているの?」


 聞いても、何も喋ってくれない。スタンガンで少し脅そうかしら……いや、意地になって余計話してくれなくなる気がするわ。ここは、落ち着いてもらうためにしばらく黙ってみましょう。夜葉も抵抗せず、じっとしている。



 なんとなく気まずい沈黙が続く。日もだいぶ昇ってきた。けれど夜葉の方から何か喋ってくれることはなさそう。そんなに私、信用ないのかしら……。


「わかった。もう無理に話をして、とは言わないわ。でも、実行するのだけはやめて欲しい。殺されるのは困るけど、私に当たってもいいから。気晴らしの相手にはいくらにでもなるから。これからも仲良くしていきましょ?」


 夜葉は目を合わせてはくれない。それでも、数分黙った後、


「わかった。そういうことにしとく。(ひとまずそう言っとけば…)」


 と言ってくれた。声が小さくて途中からは聞こえなかったが、事件を起こすことをやめてくれることがとにかく嬉しかった。これでみんな救われるんだ。


「ありがとう。そう言ってくれてうれしいわ」


「それより、早く手錠外してくれない?」


「あ、うん」


 私は夜葉の手錠を外そうとした。

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