前編(2)
廊下は薄暗く、歩きづらい。目が慣れるまでは、素早く歩くことは無理そう。
目を慣らしながらゆっくり進んでいると、右方に扉が見えた。扉の前に立ち、ドアノブに手をかけゆっくりと開ける。中は個室で、何もない殺風景な部屋だった。
私はなぜか嫌な予感がした。部屋の中に入ってはいけないと、私の直感が言っている。でも、調べずに素通りするのも抵抗がある。どうしようかと考えながら手元に目を向けると、扉の違和感に気づいた。電子錠のようなものがついている。廊下や部屋の様子と比べると、電子機器の存在は明らかに怪しい。もしかしたら、部屋に入った瞬間閉じ込められるかもしれない。
私は部屋に入ることをやめ、扉を閉じた。するとカギが閉まる音が響いた。入らないで正解だった。
部屋を後にして再び廊下を進む。それにしても、あの部屋に私を閉じ込めるつもりだとしたら目的が分からない。何やら事件に巻き込まれている予感がする。ここまで何もなかったが、あったとしてもろくなことではないだろう。むしろ引き返して、私が目を覚ました部屋をもう一度詳しく調べてみたほうがいいか。何もなくてもあの部屋で時間を過ごすのも悪くない。幸い、生活に困ることはなさそうな設備が揃っていた。危険が待ち伏せていそうな場所に行く理由はない。そう考え引き返したが、手遅れだった。鍵がかかっていて中に入れない。ここにも電子錠があったらしい。
中に入れないなら、ここで救助を待っておくべきか。正直、こんなところに居たくはないけど、危険な道を進むよりはマシだと思う。そう考えていると、視界の端で何かが動いた。廊下の隅に目を向けると、細長い生物がいた。ヘビだ。しかも毒ヘビの類。こっちに向かってくる様子はないとはいえ、廊下にいるわけにはいかなくなった。少なくとも、どこかの部屋に入らないと。最初の部屋を出たのは失敗だった。先に進むしかないか。
音を立てないよう、ゆっくりと歩く。薄暗さにもだいぶ慣れてきた。さっき引き返した場所を少しすぎたところで、廊下は曲がっていた。曲がり角の先には大きな扉が見える。明らかに怪しいが、廊下にいるのも不安だ。気が進まないけど、足を進めるしかない。
踏み出したとき、足に鋭い痛みを感じた。とっさに足を後ろに引く。その勢いのまま転んでしまった。痛みに目を向けると、横一線にそこそこ深い傷を負っている。何が起こったのかわからなかったが、扉の方向に目を向けると理解できた。足元にピアノ線のようなものが張ってある。
転んで目線が近くなったから認識できたけど、普通に立っていたら気づかない上、扉に目を奪われているなら足元は見ない。なんていやらしい仕掛けだろう。この先もこんな罠があると思うと気が重くなるけど、ひとまず扉の先に行こう。
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