第2話
その魚はイルカ程の大きさで全身が水色に輝き、滑らかな流線形の姿をしている。
又、体の各所にあるヒレは体と同じ水色で先端は透けていた。
普段は海溝の横穴に住み、時々温かい海面へ泳いでは微生物を食していた。
「ディット、沢山食ったか」
「ああ、今日も満腹だ」
二匹の魚は思念波で会話した。この魚達は高度な知能を持ち会話が出来た。
「食い物はあるが熱くて息が止まりそうだ」
エルンが言うとディットは「あの眩しい光さえなければもっと上へ行けるのにな」と目を細めた。
海上のスレスレまで燃える炎の光は海中ではオレンジの日差しとなって熱を帯びながらゆらゆらと揺れていた。
特に夜空に燃える炎は海中では巨大な怪物のように大きく揺れて生き物達は怯えて深い海底へ逃げて朝まで眠った。
ディット達はオレンジに揺れる光に背を向けて海溝の横穴に帰った。
横穴に入ると広い空洞があり、水面に出ると岩の天井が広がっていた。
ディットとエルンは水面に頭を出して額から水を噴き出した。
「俺達には仲間がいないのか」
エルンが訊くとディットは口をパクパクさせながら「どこかにいるんじゃないのか。ここにいないだけでさ」と淡々と答えて目を閉じた。
「お前の声以外は聞いた事がないから仲間はいないと思うんだ」
「俺はいてもいなくても構わないさ。お前は他の連中みたいに交尾して卵を産ませたいのか」
「そりゃ生きているからな」
「俺には無理だから仲間を探しなよ」
ディットはあっさりと答えて「寝るから」と空洞の岩肌に身を寄せて眠った。
翌日、ディットとエルンはいつものように食事をしに上昇した。
「全然眩しくないな」
エルンがキョロキョロして言った。
海上から薄い光が差し込んでいた。
「上がってみる」
ディットは上昇して海上に顔を出した。
「水が降っている」
顔に落ちる雨の雫を受けてディットは呟いた。
大気が燃えても雨は各地で降っていた。ディットにとっては初めて降る雨で驚いた。
「違う水の味だ!」
海中に潜ったディットはエルンを呼んで一緒に海上に頭を出した。
「うわっ、水だ! 水が降っている!」
エルンも驚いた。
「おお、熱くない! 気持ちいいぞ」
ディットははしゃいで泳ぎ回った。
「すごいな。上はこんな風になっているんだ」
エルンは辺りを見渡した。
果てしなく広がる海と雲しかない情景でもエルンにとっては初めて見る景色で感動した。
雨が止んで雲の隙間から炎が散り散りに降り始めてディット達は潜って微生物を食して巣に戻った。
「すごかったな」
横穴でディットは水面をピョンピョン跳ねて喜んだ。エルンは水面に顔を出して黙っていた。
「どうしたんだ、エルン」
「上の景色を見たのが初めてだったから驚いたよ。何もないんだな」
「俺もだ。水が顔に降ったのはびっくりした。また行けたらいいな」
ディットはエルンの周りをゆっくり泳ぎながら言った。
それからはずっとオレンジの光が海中に差し込む日が続いた。
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