その2 八つの詩句の章 1

   二 洞窟についての八つの詩句


七七二 窟(いわや)(身体)のうちにとどまり、執着し、多くの(煩悩)に覆われ、迷妄のうちに沈没している人――このような人は、実に〈遠ざかり離れること〉(おん)から遠く隔っている。実に世の中にありながら欲望を捨て去ることは、容易ではないからである。


七七三 欲求にもとづいて生存の快楽にとらわれている人々は、解脱しがたい。他人が解脱させてくれるのではないからである。かれらは未来をも過去をも顧慮しながら、これらの(目の前の)欲望または過去の欲望を貪る。


七七四 かれらは欲望を貪り、熱中し、溺れて、吝嗇で、不正になずんでいるが、(死時には)苦しみにおそわれて悲嘆する。――「ここで死んでから、われらはどうなるのだろうか」と。


七七五 だから人々はここにおいて学ぶべきである。世間で「不正」であると知られているどんなことであろうとも、それのために不正を行ってはならない。「人の命は短いものだ」と賢者たちは説いているからだ。


七七六 この世の人々が、諸々の生存に対する妄執にとらわれ、ふるえているのを、わたくしは見る。下劣な人々は、種々の生存に対する妄執を離れないで、死に直面して泣く。


七七七 (何ものかを)わがものであると執着して動揺している人々を見よ。(かれらのありさまは)ひからびた流れの水の少ないところにいる魚のようなものである。これを見て、「わがもの」という思いを離れて行うべきである。――諸々の生存に対して執着することなしに。


七七八 賢者は、両極端に対する欲望を制し、(感官と対象との)接触を知りつくして、貪ることなく、自責の念にかられるような悪い行いをしないで、見聞することがらに汚されない。


七七九 想いを知りつくして、激流を渡れ。聖者は、所有したいという執着に汚されることなく、(煩悩の)矢を抜き去って、つとめ励んで行い、この世をもかの世をも望まない。

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